石川県「金沢子どもはしご登り教室」
伝統の加賀鳶の「技」披露
伝統文化の保存と継承に力を入れている金沢市では、藩政時代の火消し「加賀鳶(とび)」の技を学ぶ「金沢子どもはしご登り教室」が受け継がれている。今月4日、いしかわ総合スポーツセンターで行われた演技披露式では、保護者や市民を前に1年間で習得した技の数々を堂々と演じた。月2回の練習では加賀鳶の歴史や礼節なども学び、子供たちには家庭や学校生活とは違った貴重な体験の場となっている。(日下一彦)
1年間の練習成果を発表
故郷の歴史や礼節も学ぶ
そろいの法被に、頭にキリッと豆絞りを結ぶ子供たち。襟元には「子ども加賀鳶」の文字が白く浮き出ている。背中に描かれた加賀藩前田家の家紋・梅鉢紋が鮮やかだ。豆火消したち45人が勢ぞろいすると、凛々(りり)しさが伝わってくる。
「金沢子どもはしご登り教室」の演技披露式は、昨年4月から加賀鳶の技を学んできた練習成果を発表する場だ。今年度は小学校2年生から6年生まで45人が取り組んだ。金沢市内は三つの消防団の管轄に分かれ、子供たちは各地域ごとに練習しているため、全員がそろうのは、毎年6月の市祭「金沢百万石まつり」とこの演技披露式の2回だ。
会場の「いしかわ総合スポーツセンター」には、高さ4㍍と2・5㍍のはしご6本が立ち、一人ひとりが順番に習得した技に挑戦した。安全のため腰に安全帯を付けてはしご正面に立つ。木遣(や)りくずしが流れる中、「お願いしまーす」と元気良くあいさつしてはしごに向かう。てっぺんに登ると、足首をはしごに巻き付けただけで体を支えたり、ヒザでバランスを取りながら、「ハイッ」と威勢の良い掛け声とともに、次々と大技を決めた。
いくつか演技を紹介すると、まず「火の見」で始まる。はしごのてっぺんに腰を下ろして、火事の状況や風向き、周囲を確認するしぐさだ。はしごから手を離し、右手は敬礼するように額に持っていき火事場を仰ぎ、左手は水平に広げる。高度なバランス感覚が必要だ。「一本大の字」は下腹一点で体のバランス、平衡感覚を保つ。そのまま「肝(きも)返り」に続く。大の字からくるりと体を回転させ、頭を下に逆さになる。まるで落下するようで、腰と足だけで支える。まさに肝を冷やすような技だ。
子供たちは臆することなく、次々と挑戦し、難度の高い技も堂々と演じていた。技が決まるたびに、はしごの下では華やかに纏(まとい)が振られ、盛大な拍手が巻き起こっていた。
他にも、源義経が小舟から小舟へと身軽に飛び移ったといわれる「八艘(はっそう)飛び」は、遠くへ飛び越える姿勢を取る。「吹き流し」は道路や空港の吹き流しを模して、背から足先まで水平に伸ばし、竿の先で風に吹きなびくように見せる。どれも難度が高い。この日は13種目を演じ、最後は「敬礼」で締めくくった。
一通り演技が終わると、「ありがとうございました」と一礼。キビキビしていて気持ち良い。練習を通して、基本的な礼節が自然と身に付いていくようだ。保護者たちはわが子の勇姿を盛んにビデオやカメラに収めていた。ある母親は、「一人でも嫌がらずに通い、校下(校区)以外の友達もできて、精神的にしっかりしてきたようです」と話し、目を細めていた。
同教室は、子供たちに伝統の加賀鳶に触れてもらおうと平成14年7月に開講し、毎年3月に演技披露式が行われている。今年で15回を数える。「加賀とびはしご登り保存会」(澤飯英樹会長)が中心となり、月2回土曜日の夜、消防団機械器具置場などを稽古(けいこ)場に練習を重ねてきた。開講以来、延べ300人余りが演じてきた。女子児童も多い。
始めるきっかけについて、市消防団連合会によれば「百万石まつりの演技を見て応募したり、市の広報などで募集を知った保護者がわが子に勧めるケースもあります」とのことだ。法被など必要品はすべて貸与され、保護者は子供を稽古場に送り迎えするだけでよく、指導は保存会の会員らがボランティアで受け持っている。
教室では演技の習得とともに、その歴史も学んだ。加賀鳶は県指定の無形民俗文化財で、日本のはしご登りの元祖と伝えられている。江戸城下では、日ごろ鍛えた身軽なしぐさや熟練した技、威勢と気迫のこもった動きが、庶民を大いに喜ばせたという。子供たちが身近な加賀鳶の歴史を学ぶことは、ふるさとの歴史を知るきっかけにもなる。
保存会の会員は「教室では礼節を重んじ、校下を超えて集まるので、子供たちのつながりを大切にしています。大人より技の理解が早く、この中から、伝統文化を継承する人材が育ってくれるとうれしいですね」と期待を寄せている。