身近な水辺の生き物保全への取り組み

 清流の汚濁、ため池の減少、農薬散布などで水辺の生き物の生息環境が悪化している。そんな中、都立動物園・水族園(上野動物園、多摩動物公園、葛西臨海水族園、井の頭自然文化園)では多摩動物公園内の野生生物保全センターを核に身近な水辺の生き物の保全に取り組んでいる。その一環として葛西臨海公園内のホテルシーサイド江戸川で「身近な水辺の生き物を調べる・守る」と題し57人を集めて講演会が行われた。葛西臨海水族園教育普及係の堀田桃子さんが14年間アカハライモリの保全活動を行ってきた地道な活動を紹介。また、佐藤拓哉神戸大学准教授が「ハリガネムシがつなぐ森と川の生態系」と題して不思議な生態と現象を紹介した。

葛西臨海水族園の堀田桃子さんら

アカハライモリ絶滅危惧種から脱出に光明

身近な水辺の生き物保全への取り組み

アカハライモリの保全活動を紹介する葛西臨海水族園教育普及係の堀田桃子さん

 堀田桃子さんはアカハライモリの保全活動を紹介した。

 アカハライモリは日本固有の両生類で主に本州の水田や池、小川などに生息、主にミミズや昆虫、オタマジャクシなど何でも食べる。一生を見ると、産卵は4月から7月ころ、ゼリー状の膜で覆われた2~3㍉の卵を一粒づつ水草に産み付ける。

 4週間で孵化(ふか)しエラで水中呼吸する。孵化後、2~3カ月するとエラや尾びれが体の中に吸収しされ、肺呼吸を始める。親イモリと同じような体型になり陸上生活を始め、2~3年で成体となり、10年から長いものでは20年生きる。陸上と水中の両方の環境がないと、生きていけない動物だ。

 アカハライモリを守る活動のきっかけは、18年前、葛西臨海水族園で身近な水辺の生き物であるアカハライモリの展示のために生息地を探したが、関東近辺でもなかなか見つからなかった。2006年から環境省の絶滅の恐れがある野生生物のレッドリストに記載されている。関東近辺では生息環境が悪化し、絶滅危惧種や準絶滅危惧種に指定されている。

 都心に最も近いアカハライモリの生息地が多摩丘陵の水辺で見つかった。アカハライモリを守るために、湧水があって、水が溜まりやすい場所に池を造った。干上がってしまわないよう、防止シートを底に張ったり、水草を植えたり、草刈り、泥のかき出しなど試行錯誤を繰り返した。

 調査区域には現在、350~400匹(推定個体数)ほどが棲(す)んでいる。幼体は成熟するまでの間に陸上生活を送る期間があり、成体は水辺と陸上を行き来して生活していると考えられる。成体の陸上での行動は詳しく分かっていない。池を造ったことで、卵や幼生、幼体も見られるようになり、個体数が増えていることが分かった。


佐藤拓哉神戸大学准教授が講演

ハリガネムシがつなぐ森と川の生態系

カマドウマ操り渓流魚の餌に

身近な水辺の生き物保全への取り組み

質問にこたえる佐藤拓哉神戸大学准教授

 佐藤准教授は「人と同じことをしていたらだめ」「何かおもしろいことはないか」「普通じゃない生活をしなさい」と祖母からいつも言われて育った。このことが、一風変わった「ハリガネムシ」研究の下地をつくった、と自分の研究活動に対する姿勢から話しを始めた。

 寄生生物というと、余り良くないイメージがあるが、自然界に普遍的に存在し、既知種の4割くらいが寄生生物と言われる。子供の頃、道端にいるカマキリを水に漬けると、お尻からにゅるにゅるしたひも状のものが出て来た経験がある方もいると思う。これが、ハリガネムシだ。

身近な水辺の生き物保全への取り組み

 ハリガネムシは直径0・5㍉、長さ150㍉程度。河川で卵から孵化(ふか)して、カゲロウやトビケラといった水生昆虫に食べられる。水生昆虫の羽化に伴って陸に移動したときにカマドウマ類などの陸生昆虫に捕食され、すぐに食道などを突き破って、宿主の生命に直接関わらない体腔に寄生して成長する。産卵期になると宿主のカマドウマ類の行動を操作して水に飛び込ませ抜け出し、繁殖相手を探すといった生命史を持っている。

 生態系の研究を行っていた和歌山県の渓流は森に囲まれて、小河川に日光が注がない、川の中で光合成をする草とか藻類が繁茂できない。にもかかわらず、川にはアマゴとかイワナが沢山棲んでいる。森が光合成で育んだ虫が河川に飛び込むことによって、河川に棲む魚の大事な餌になって、生態系が成り立っていることが分かった。

 カマドウマ類の量を調べていると、夏から秋にかけて、非常に多く渓流に落ちている。魚を捕まえて、水でお腹の中を洗うと、食べている物を口から吐き出す。人為的に操作する試験区を設定。カマドウマの飛び込みが制限されたところでは藻を食べる水生昆虫が代わりに食べられて、勢い藻が繁殖する結果が出ました。森と川の生態系はハリガネムシを通して、つながっていることが分かった。

 本研究では、これまで見過ごされていた寄生者が、森林と河川という異質な生態系のつながりを支える重要な役割を果たしていることを世界で初めて実証した。