道徳教科書検定、教材生かす教師力の向上を
道徳は2018年度から小学校、19年度から中学校で「特別の教科」として正式教科になる。義務教育での新教科の教科書検定は1990年度の「生活」以来26年ぶりのこと。小学校全学年で8社から申請された計24点全てが合格した。
子供を記述式で評価
道徳教育は「人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を生活の中に生かし、伝統と文化を尊重し、わが国と郷土を愛し、個性豊かな文化の創造を図るとともに、公共の精神を尊び、民主的な社会及び国家の発展に努め、他国を尊重し、国際社会の平和と発展や環境の保全に貢献し未来を拓く主体性のある日本人を育成するため、その基盤としての道徳性を養う」ことを目標としている(文部科学省のホームページなどによる)。
これまでの道徳は教科外の活動として、他の教科と比べると軽視される傾向にあった。少ない時間数で右記の内容すべてを網羅した授業を行うのも、簡単ではない。今回合格した教科書には、文科省の教材などで十数年間使われてきた物語や昔話の再録も多くある。
大津市の中学生のいじめ自殺問題が道徳の教科化の契機となり、政府の教育再生実行会議が2013年、教科外活動として扱われてきた道徳の正式教科への格上げを提言した。次期学習指導要領で導入されている「主体的」「対話的」「深い」学びにつながるように、学校現場では、いじめる側、いじめられる側、回りで見ている子供という設定で「いじめ」の寸劇を取り入れ、意見を言ったり、考える時間を設けたりしている所もある。
また、東日本大震災で被災した人たちや救助活動に参加した人たちを紹介して助け合いの精神の大切さを伝えたり、スポーツ選手の成功、その陰での努力の必要性などに触れたりしている事例もある。
初めての検定ということで、各社が無難な線を狙い、合格することを目指したため“やっつけ”的な面も見られる。小学校の低学年だと、先生が「右」と言えば「右」、「左」と言えば「左」に傾いてしまう。教科書の内容が「きれいごと」の受け売りや「特定の価値観」の押し付けにならないことを望む。
現場の教師たちは、これまでも週1回程度の授業を行ってきており、これを継続すればよい。だが困っているのは、児童・生徒の評価をどうすればよいのかということだ。数値でなく、記述式で行われるので、前例が無い中での対応になる。
道徳教科書の編集部への問い合わせで多いのは、教師用指導書に評価の例文集を作ってほしいという声だ。さまざまな書類作成で忙しい学期末に、一人ひとりの通知表に文章で記述する作業が加わることになる。
指導事例伝えサポートを
団塊世代のベテラン教師が大量に退職する時期、若い教師が新しい教科書で十分な授業を行うことは難しい。文科省は「子供を多様な側面から見詰め、評価につなげられればよい。そうした指導事例や情報を教育委員会や現場の教師に伝えサポートしていきたい」と言う。学校長を柱に「チーム学校」で教師力の向上が欠かせない。