幼稚園と保育園の質向上の拠点に

国立教育政策研究所・幼児教育研究センターが発足

 近年、国内外で就学前教育への関心が高まってきている。1月16日、国立教育政策研究所・幼児教育研究センター発足記念シンポジウムが文部科学省内の講堂で開かれた。幼児教育の研究拠点となるセンターの誕生によって、幼児教育の質向上に向けた研究と取り組みが始まる。(横田 翠)

記念シンポも開催、地域コミュニティー再構築を

 わが国初の官立幼稚園(現お茶の水女子大学付属幼稚園)創設から140周年。昨年4月、国立教育政策研究所内に幼児教育研究センターが誕生した。

 近年、ノーベル経済学賞受賞学者のジェームズ・ヘックマン氏らの研究により、コミュニケーション能力、自尊心、自己制御、忍耐力といった非認知能力の重要性が認知されるようになった。非認知能力は乳幼児期に形成され、後の人生に大きな影響を及ぼすと言われている。

 国が研究センターを設置した背景には、幼児教育の質を高める教育政策や研修のあり方について、新たな政策立案が必要になってきたことが挙げられる。

幼稚園と保育園の質向上の拠点に

幼児教育の未来について語る東大・発達保育実践政策学センター長の秋田喜代美氏(中央)

 発足記念のシンポジウムには、保育・幼児教育の専門家ら約400人が一堂に会し、幼児教育の質向上に向けて、これからの研究と研修、そして幼児教育の方向性が議論された。まず文部科学省の伊藤学司幼児教育課長と渡邊恵子同センター長が幼児教育140年の歩みを振り返りながら、これからの展望を示した。

 戦後、女性の社会進出が進み、共働きの子育て家庭が増え、今では1、2歳児の約4割が保育所を利用している。一方、長時間保育、地域・家庭の教育力の低下など、乳幼児が育つ環境は厳しさを増している。

 こうした乳幼児が育つ環境の変化に対応し、今年、「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」「認定こども園教育・保育要領」が一つの幼児教育として新たに改訂される。その意味でも今年は幼児教育の大きな転換の年となる。

 パネル討議では小学校学習指導要領改訂を受けて、白梅学園大学教授・同研究所上席フェローの無藤隆氏が今後の幼児教育がどう変わるのか、改訂のポイントを説明した。

 今回の改訂の出発点は幼稚園も保育園も3歳以上は同じ「幼児教育」という認識に立ち、「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」の3歳児以上については共通の記載とする。つまり五つの領域の教育内容の整合性を図り、同一の方向で指導がなされる。学習指導要領では「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の三つの柱を教育の基本に置いている。幼児教育も三つの柱を基本に、幼児期の終わりまでに育ってほしい姿を明示し、小学校教育につなげていく狙いがある。

幼稚園と保育園の質向上の拠点に

幼児教育の専門家約400人が集まり、文部科学省講堂にて発足

 討議では、重要な乳幼児期にどういう環境と教育が求められているのか、各専門家から意見が出された。千葉大学准教授・砂上史子氏は幼児の遊びの重要性、遊びを引き出す保育者の役割の重要性を強調した。保育の質を上げるには保育者の教育がポイントとなる。無藤氏は研修の制度化、キャリア化、研修のネットワーク化の三つをポイントに挙げた。

 一昨年発足した東京大学大学院の発達保育実践政策学センターのセンター長を務める同大学院教授の秋田喜代美氏は、「親も幼稚園や保育園という集団の中でつながって、地域の大人になる基礎ができる。親が町の園の親になったり、それが家庭を豊かにしていく一つになる。親も巻き込みながら、幼児教育で何ができるかを見極めることが大切」と話した。

 さらに、あかみ幼稚園園長の中山昌樹氏は、認定こども園の10年の歩みを振り返り、「子供の育ちを支える土台としての家庭や地域コミュニティーが壊れつつある今日、施設の役割はより大きくなった」と地域・行政との協働、さらに親・保護者も子育てに協働できるような、地域コミュニティーを再構築する拠点の必要性を強調した。

 今後、研究センターは東大発達保育実践政策学センターと連携しながら、幼児教育研究の強化の役割を担っていく。ホームページの充実、研究ネットワークの構築に力を入れ、研究成果を現場に反映させることで、実質的な幼児教育の質向上につながると期待されている。