国際教養大学で行われた交流イベントに15人集まる

“太鼓の神様”キム・ドスク教授が指導

 韓国芸術総合学校(日本の4年生国立芸術大学に相当の)のキム・ドクス教授と学生によるワークショップ「韓国のリズムを体験する」が、このほど、公立大学法人国際教養大学(秋田市雄和)で行われ、同大生と一般人(打楽器経験者)約15人が集まった。参加者は韓国語の歌詞の意味は分からないものの、独特のリズムを学び取ろうと、歩き・踊る、独特の練習法を体で楽しんだ。(伊藤志郎)

韓国の文化とリズムを体験、学生ら歩き・踊り交流

国際教養大学で行われた交流イベントに15人集まる

ワークショップ参加者にリズムの取り方を指導するキム・ドクス氏(白い服)と学生ら=国際教養大学スダホール

 キム・ドクス教授は、チャンゴ(太鼓)の神様と呼ばれ、四つ(サムル)の楽器による演奏(ノリ)という意味の「サムルノリ」創始者として知られる。坂本龍一、山下洋輔などジャズやロックミュージシャン、著名舞踏家とのセッションなど世界的な活動を行ってきた。芸術監督やワークショップ、文化交流にも力を注ぐ。

 今回は、秋田県観光スポーツ部委託事業の日韓学生交流伝統芸能プロジェクトとして、また『踊る・秋田2016』提携事業として実施された。

 教養大学の学生7人のうち、アフリカの伝統楽器ジャンベを持参した4年生の高原遥(はるか)さんは、軽音楽部で毎日ドラムをたたく。「韓国の特徴的なリズムパターンを知りたい」と心待ちにしてきた。ニューヨーク出身の4年生プロミス・バールさんは違う文化に触れたいと申し込んだ。

 会場にドラムセットを持ち込んだのは、元プロドラマーで現在はジャズライブハウスを経営する太田徹(とおる)氏(64)。「キム・ドクス氏は、ジャズ界では知る人ぞ知る超一流のアーティスト。今でこそ日本人もアメリカで活躍するが、彼は早くに渡米してミュージシャンに熱狂的に受け入れられた先駆者。マイルス・デイビス氏とも共演したほどの人です」と心ワクワクさせワークショップに臨んだ。

 キム・ドクス教授は1952年、男寺党(ナムサダン)の芸人の息子として生まれ、物心ついた時からチャンゴ演奏を見よう見真似で覚え、わずか5歳で男寺党デビュー。7歳のときコンクールで大統領賞に輝き中学生のころから世界ツアーに出る生活を始めた。

 ところが、若いキム・ドクス氏に転機が訪れる。1977年、朴正煕政権下でこれら伝統楽器がデモで打ち鳴らされるとの理由で押収対象楽器に指定されたのだ。悩みぬいて編み出したのが「4つの打楽器を座ったまま演奏する」サムルノリのスタイルだった。78年にサムルノリチームを結成。日本には82年に初来日。その後、世界ツアーでアーティストに衝撃を与え続けていく。

 そのため、キム教授は日本語や英語はもちろん、ドイツ語、フランス語も話ができる。ワークショップは、日本語、韓国語、英語を交えて行われた。

 教授とともに来日した学生は同国立芸大の2、3年生。チャンゴのイ・ジヒさん、プクのヨン・スルギさん、ケンガリのアン・ユヒさん、チンのキム・ヒャンスリさんの女子4人。前者2人は太鼓、後者2人は金属の鉦を主に担当する。これら四つの楽器は、1500年以上前から、神事や農業、戦争、お祭りに欠かせない基本楽器として進化してきた。

 ワークショップの導入部は呼吸法から。歩きながら声を出してリズムを体感する。「韓国にはリズムが何百種類とある。3拍子+2拍子が基本」などキム教授の解説を聞きつつ、全員が輪になって手拍子をとり歩きながら踊る。やがて、参加者は締め太鼓やジャンベ、ドラムなどをたたきながらリズムを体感していく。

 参加者のプロミス・バールさんは「韓国語の意味は分からないが、曲のリズムが好きだ」と歌詞を口ずさむ。秋田市の彌高神社のお祭りなどで演奏を披露している太鼓の会の30代女性は「日本ではドンドコなどと太鼓のたたき方から教わるが、キム・ドクス氏は歩きのリズムから入っていって新鮮です。ノリで体を動かしながら楽しんでいます」と話す。

 ワークショップ翌日、秋田県児童会館(秋田市)でキム・ドクス氏と4人の学生による公演が行われた。小さい頃から楽器を演奏する4人は、キム・ドクス氏の神業のようなチャンゴ演奏にぴったり寄り添い、天地が轟き、あるいは宇宙に漂う気を感じさせるエネルギッシュな演奏を披露した。また楽器を演奏しながら踊る、伝統的な「農楽」で会場を沸かせ、韓国の国立芸術大学のレベルの高さを示した。