情愛ほとばしる「親子の手紙」、夏休みの課題などに活用
「親子の架け橋一筆啓上」が石川県の小中学校で19年目
石川県が親と子のコミュニケーションを計るために取り組んでいる「親子の架け橋一筆啓上 親子の手紙」(主催・心の教育推進協議会)が、今年で19年目を迎えた。日頃、なかなか口にできない親子のそれぞれの思いを、百字以内につづった手紙で伝える事業だ。親子間の会話が取りにくいとされる昨今、互いの気持ちを理解することや、家族の話し合いを大切にする気運を高めており、静かな広がりをみせている。(日下一彦)
娘が「挑戦状! 反抗期に突入」/「受けて立とうじゃないの」と母
「挑戦状!お母さん、どうやら私は『反抗期』に突入した模様です。お手伝いは、たのまれるとしたくありません。なぜか、色々なことに腹が立ちます。お母さん、こんな私の挑戦状、受けとってもらえますか」(小6・女児)
「とうとう来てしまったのね。待ってたよ、挑戦状。受けて立とうじゃないの★ なんてったって、ママは、反抗期の先輩なんだからね。あなたよりも淒い戦いの経験者だぞ。今度、ママに勝てる方法教えてあげるよ(笑)」(母)
反抗期にさしかかった娘の微妙な心理を、しっかりと受け止める母親の大らかな心が伝わってくる。百字の制限された字数の中でも、ほのぼのとした母娘のやりとりが目に浮かぶようだ。
これは昨年度の「親子の手紙」で、優秀賞に選ばれた10点の中の一作だ。優秀賞を含め、入選した作品は、どれも心の通う家庭づくりをイメージさせる内容で、家庭の温かさ、親子の会話の大切さ、家族の絆の深さなどが読み取れ、改めて親子の触れ合いの大切さに気付かせてくれる。
中学校や小学校高学年の作品には、思春期特有の複雑な心情やそれに対する保護者のとまどいが素直に表現されたものや、理解し合いたいとの思いを伝える作品も見られる。また、日頃、面と向かっては言えない「ありがとう」「ごめんなさい」という気持ちを言葉で伝えるよい機会ともなっている。
近年、携帯電話の普及で、手紙を書くことが少なくなってきているだけに、手書きの文章やイラストを親子でお互いに交換することは、とても温かく心のこもった時間になっている。
「親子の架け橋一筆啓上 親子の手紙」は、教育関係者や有識者などから構成される「豊かな心を育む教育推進県民会議」が取り組む事業の一環で、平成10年に始まった。毎年広がりを見せ、昨年度は過去最高の28496点の応募があった。
夏休みの課題として、あるいは道徳教育の一環として、さらに家庭と学校の連携事業の取り組みの一つとして、PTAと連携したり、学校ぐるみで取り組むところも増えている。
応募資格は県下の小・中学校の児童・生徒とその保護者や家族で、所定の一枚の応募用紙には百字のマスが2カ所あって、その中に親子それぞれが思いをつづる。応募作は専門委員らが審査し、入賞作品120点(優秀賞10点、優良賞50点、佳作60点)を決め、優秀、優良賞60点は、80ページ余りの作品集として紹介されている。応募者全員と県内の小学校4年生全員に配付される。
同事務局は「学校ぐるみで積極的に応募するところが増えました。小冊子も多くの県民に手に取ってもらうようになり、この運動が徐々に浸透してきたようです」と手応えを感じている。
事務局に届いた保護者の感想をみると、「共感できる親子が何組かあり、子供への接し方の参考になります」「家族のコミュニケーションの大切さを改めて教えられました。こんなふうに考えて上げられたら家族が温かくなれるでしょう」「読んでいると心が温かくなり、大人でもグッときて泣けました。毎年楽しみにしています」などの声が寄せられている。
入選作は11月に開かれる「豊かな心を育む県民大会」で発表・表彰され、今年度の小冊子もでき上がる。
昨年の優秀賞の中からもう一点紹介しよう。障害のある母を支える娘の情感がにじんでいる。
「あなたが生まれた時、ママの耳が聞こえないハンディをどう理解してくれるか心配だったけど……逆にママの耳のかわりにいつも助けてくれて嬉しいな。優しい娘で良かったヨ。ママの娘に生まれてきてくれてありがとうね!!」(母)
「ママの耳が聞こえない事を他のお母さんと違うのを知った。でも、ママは明るくて面白くどんな時も私を元気にしてくれる。これから色んな壁にぶつかるかもしれないけど 『二人三脚』で乗りこえようね。ママ!」(小6・女児)
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