北海道の“攻めの農業”考える

学術フォーラムで北大教授が提言

発展のキーワードは「共感」

 昨年11月、日米豪など太平洋を取り囲む12カ国が参加して話し合いが進められてきたTPP(環太平洋経済連携協定)交渉が大筋合意に達した。その内容は農産物や工業製品などの「モノの関税撤廃・引き下げ」から「金融サービス」「環境」「投資」の自由化など幅広い分野にわたる。中でも農産物の関税引き下げ・撤廃は北海道農業に大きなダメージを受けることから、民間の学術教育団体のアカデミー・フォーラム懇談会(代表世話人・谷口博北大名誉教授)は、「北海道における攻めの農業を考える」をテーマにセミナーを開催、新しい北海道の農業のあり方を提言した。(札幌支局・湯朝 肇)

地域を消滅させぬ振興策必要

発展のキーワードは「共感」

4月23日に開かれたアカデミー・フォーラム懇談会(札幌市内)

 「現在、TPP交渉合意によって日本の農業が新たな方向に舵(かじ)をとろうとしている。その一つのキーワードが“攻めの農業”になっている。しかし、この攻めの農業を実現していく上で最も大切なものを一つの言葉で表すと“共感”ということになる」

 4月23日、札幌市内で開かれたアカデミー・フォーラム懇談会で、北海道大学大学院農学研究院の柳村俊介教授は、こう語って今後の日本農業とりわけ大規模経営が主流の北海道農業の将来について言及した。

 TPP交渉大筋合意によって、コメや小麦、乳製品など交渉の俎上(そじょう)に載った重要品目に関わる農家に対する農業政策や地域振興策が広く議論されているが、柳村教授はどのような政策が提示されても、「共感を得られる農業こそが発展を確実なものにする」と明言する。同教授は四つの次元における共感を唱えた。

 すなわち、①農業者の共感②農地所有者、住民、地域など農業にかかわる人々の共感③国民と消費者の共感④国際的な共感―を挙げ、日本の農業が国際化の中で今後も存続し発展するには単なる机上の政策ではなく農業者、地域、そして消費者の共感を得ることが不可欠であり、国際的共感を得る上でもこれら3者の共感を中心に置かなければならないと力説した。そのためにも、農業についての意識改革という教育的な課題も浮上する。

 ところで、アカデミー・フォーラムは2002年7月に設立された民間の学術教育団体。北海道在住の大学教授を招いて年4回の割合で定期的にセミナーを開催している。とりわけ道庁が、15~20年までを地域社会創生に向けた「北海道総合戦略」の推進期間としたことを踏まえ、同フォーラムでは「北海道、次の50年のグランドデザインを考える」をテーマに特別企画を進めている。

 今回の企画について暮地本修事務局長は「TPP交渉合意を受け、安倍政権が農産品輸出額を20年までに1兆円とする目標を掲げ、また農家の拡大を推奨するなど日本の農業を成長産業の一つと位置づけていることから北海道農業に焦点を当て同教授を招きました」とその経緯を語る。柳村教授は現在、北海道農業・農村振興審議会会長を務め、北海道農業の実情に沿った農業政策を提言している。

 フォーラムで柳村教授はまず、日本の耕地面積別に農家戸数と一戸当たりの耕地面積の増減率を北海道と都府県で比べた。それによると05~10年の5年間について農家戸数は北海道では50㌶以上、都府県では4㌶以上で増加し、それ未満では減少している。さらに詳しく見ると北海道は3~10㌶の耕地面積を持つ農家が30%近く減少しているのに対し、100㌶以上は29%の増加を示す。

 一方都府県は、4㌶未満の耕地面積を持つ農家が15%前後減少しているのに対し、20㌶以上の農家は80~155%の増加を示している。これについて柳村教授は「政府は農業の大規模化を進めているが、実際は農業の大規模化はかなりのスピードで進められている」と説明。

 その上で、「大規模化が進められていく中で、弊害もまた生まれてくる」と指摘する。その一つが農業者の減少と過疎化の問題。「規模拡大すれば農業者は減少していく。一戸当たりの所得はプラスになるが、人材の厚みという点ではマイナスに働く。農家減少は地域の疲弊につながる。従って、地域を消滅させない農村振興策が必要だ」と語る。

 フォーラムには農業関係者や学生など30人ほどが参加。講演後は会場から「後継者不足や担い手不足は生産者だけでなく、農器具販売などの流通業にも及んでいる。そうした点にも目を向けてほしい」といった意見が出るなど活発な議論が繰り広げられた。次回のフォーラムは6月25日を予定している。