母子家庭の7割に養育費未払い、行政だけの対応に限界
地域ボランティア育成が鍵 川崎市ひとり親家庭支援取り組み
昨年12月、政府は子供の貧困対策「すべての子どもの安心と希望の実現プロジェクト」を閣議決定した。これを受け、全国自治体は子育て困難家庭の支援に力を入れている。経済的理由等で子育ての困難を抱えるひとり親家庭をどう支援するか。川崎市の取り組みをリポートする。(横田 翠)
全国のひとり親家庭は約150万世帯、その貧困率は50%を超す。母親が子供を引き取る、母親親権は8割に上る。川崎市のひとり親家庭は母子が5123世帯、父子が710世帯(平成22年国勢調査)。母子・父子以外の世帯員がいる世帯を合わせると約8000世帯。児童扶養手当受給者も7180世帯(27年11月現在)と増えている。
市がひとり親家庭の自立支援のための計画及び策定にむけて実施した「ひとり親家庭の生活や就労の実態調査」(27年3月発表)によると、ひとり親家庭になった理由は、母子世帯では離婚が77・4%、死別が12・5%、その他未婚が7・3%。母子家庭は父子家庭に比べて未婚理由が多く、その割合は増える傾向にある。母子家庭の2割が就学前の子供を抱えている。
不安定なパート・アルバイトなど非正規の割合が母子家庭では約4割と高い上に、離婚後の養育費の未払いという問題が貧困の背景にある。民法では協議離婚した場合、親子の面会交流と子の監護費用を定めているが、罰則規定がない。
このため、実際は養育費の取り決めをしていなかったり、取り決めても守られないケースが多い。川崎市の場合は全体の64・4%が養育費の取り決めをしていない。また母子世帯の67・7%が養育費を受けとっていない。
ひとり親家庭が抱える悩みで最も多いのは仕事と子育ての両立、そして子供の教育だ。子育てしながら経済的に自立できるように、市は「子育て・生活支援」「就労支援」「養育費確保支援」「経済的支援」の四つの柱で支援を進めている。
児童扶養手当や医療費助成といった経済支援のほか、高卒認定試験の講座受講費を最大で6割支給など、親の学び直しを支援している。その他、日常生活支援、家庭保育福祉員制度など、きめ細やかな支援がある。調査ではこうした支援施策や施設があっても認知されていない実態も浮き彫りになっている。
就労形態が不規則で余裕がない上に、行政に対する苦手意識がある。市民・こども局こども本部こども家庭課では、周知を徹底するためにひとり親家庭支援の案内パンフレットを行政窓口に置くだけでなく、メール配信で直接通知するなど利用を促していくという。
また、ひとり親家庭では、離婚後一緒に暮らしていない親と子供が会う、あるいは電話や手紙などで定期的、継続的に交流を保つといった面会交流の取り決めを67・2%が行っていない。現在も面会交流を行っているのは、母子27・6%、父子家庭38・8%に止まっている。
実態調査では「子供のことについて悩みを相談する人がいない」が、母親の1割以上、父親の3人に1人が誰にも相談していない。保育園に預けていても、保護者の集まりや行事に参加する機会がないため相談しにくいという事情もある。
市ではひとり親家庭の日常生活や保育の支援として、10年前からエンゼルパートナー事業を進めている。就職活動、疾病、冠婚葬祭、出張、学校等、一時的な理由で保育や生活支援が必要になった時、それを援助するというもの。ひとり親家庭の子育てを側面から支える仕組みだが、昨年の利用者数は川崎市全域で356人。支援員の数はわずか87人だ。有償ボランティアではあるが、急な要請に対応できる人材をプールできていない。
若年離婚や未婚の母子家庭では、とりわけ虐待のリスクが高まる。虐待予防の意味でも、子育て経験のある身近な大人が困難家庭を支える仕組みは重要だ。
事業スタートから10年。1人当たり月10回という利用制限を今後は定期的な利用ができるよう、拡充させていく計画だ。ただ、ひとり親家庭に限定したエンゼルパートナー事業がどこまで支援を広げられるか、まだ見えていない。
行政だけではきめ細やかな支援には限界があり、地域ボランティアをどう育成し活用できるか、これからの課題だ。
川崎市は新年度からこども未来局に格上げし、ひとり親家庭等の困難家庭の支援体制を強化していく計画だ。