テレビの衝撃映像


 「3・11」から5年がたった。大震災から数カ月後、宮城県で被災した親戚の子の言葉が忘れられない。「あの日のことを、よく覚えていないんだ」と、ぼそっと呟(つぶや)いた。それだけ大震災で負った心の傷が大きかったのだ。
 その子は運が良かった。迎えにきた母親と一緒に小学校を出ようとした時、津波が襲ってきたので、慌てて校舎の階段を駆け上って難を逃れた。しかし、同じクラスには、亡くなった児童もいた。

 11日、当然ながら、テレビ番組は大震災特集であふれた。NHKニュースを見ていると、津波の映像を映し出す前、「このあと、津波の映像が流れます」と、注意を促すテロップが出た。その時、今は中学生になった、あの子の顔が浮かんだ。あまりに過酷な体験で、今でも津波の映像を見ることができない大人がいるのだから、ましてや子供なら……。

 民放も同じようにテロップを流したかどうかはチェックしなかったが、日本のテレビ局も最近は、映像が視聴者に与える影響について、かなり配慮するようになったと言える。

 だが、2001年、ニューヨークの貿易センタービルに、テロリストに乗っ取られた旅客機が貿易センタービルに突っ込み、二つのビルが崩壊した時は違った。その瞬間の様子はテレビやネットを通じて世界中に流れたが、米国のテレビ局は間もなく放映を自粛した。子供の心に与える悪影響への配慮からだった。しかし、日本のテレビ局はあの映像を何度も繰り返し放送した。

 この差は、どこから生まれたかと言えば、米国では半世紀以上も前から、子供の心に及ぼす映像の影響について研究に取り組み、暴力的な映像を流すことの弊害について学んだ。日本のテレビ局も米国に倣い始めているが、視聴者側はどうだろうか。今も、テレビに子守をさせている保護者がいるのが気になる。(森)