エゾシカネット、森と人との共存共生目指す

北海道当別町「道民の森」でエゾシカに関わる学習会

 推定60万頭以上が生息するとされる北海道のエゾシカ。農作物や線路内侵入など依然としてエゾシカによる被害は後を絶たない。そうした中でNPO法人エゾシカネットはエゾシカ肉の普及啓蒙(けいもう)に併せて毎年、子供たちを対象にした親子参加の自然体験学習を企画。今年も10月10日、石狩管内当別町にある「道民の森」でエゾシカに関わる学習会や森の散策、植樹などを行った。(札幌支局・湯朝 肇)


鹿肉の活用や生態など学ぶ、森の散策や苗木の植樹も体験

エゾシカネット、森と人との共存共生目指す

森林学習センター内でエゾシカの生態について話を聞く参加者

 「昨年からの新型コロナウイルスによる感染拡大で私どもの活動はほとんどできませんでした。今年に入っても企画したイベントは中止が続き、この先、何もできないのではないかとさえ思いました。緊急事態宣言が解除され、今回ようやくイベント開催にこぎ着けることができて、ほっとしています。これからも安心・安全を第一に取り組んでいきたい」――こう語るのはNPO法人エゾシカネットの水沢裕一理事長。「道民の森」で開催された親子対象の「エゾシカと森林わくわく!体験ツアー」で、参加者を前に同理事長はまず、イベントができたことの喜びを感慨深そうに強調した。

 会場となった「道民の森」は、札幌から車で1時間40分ほどの所にあり、約1万2000㌶の手付かずの森や山が広がる国内最大級の森林公園だ。

エゾシカネット、森と人との共存共生目指す

森林ボランティアガイドから説明を受ける参加者

 エゾシカネットでは、この体験ツアーを1泊2日の恒例行事としているが、今年は1日だけの開催となった。午前9時半に現地受け付けを始め、10時から約1時間半かけて森の散策を行った。森林ボランティアガイドの新林弘志さんが、樹木の名称や年輪の見方、樹木の増やし方などを一つ一つ丁寧に説明する。一つ例を取ると、「親木が倒木しても、そこから稚幼樹の芽が出てきます。普通、若い樹木の芽は冬になると雪で押しつぶされたり、雪のない時期は細菌で死んでしまうのですが、倒木した木から生まれた芽は、親の栄養をもらって元気に成長していきます」と語り、森に生きる木々の生態の様子を説明。ちなみに、倒木から育つ若芽の成長を林業の世界では「萌芽(ほうが)更新」というのだそうだ。

 散策が終わって麓に帰ってからは木の枝やエゾシカの角を利用した工作を実施して午前中の企画は終了。鹿肉の入ったカレーライスで昼食を取った後は、道民の森にある森林学習センターでエゾシカの生態や人とエゾシカの関わりなどについて学習の時間を持った。最後は、センターから近くの丘陵に出向いて皆でエゾマツやミズナラなどの植樹を行い記念撮影して解散という流れとなった。

水沢理事長「子供たちを対象に啓発活動を続けていく」

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参加者全員でエゾマツやハンノキ、ミズナラの苗木を植樹

 このイベントは、いつもは参加者が通常30人は超えていたが、今回はスタッフを入れても16人で半分ほど。それでも水沢理事長は、「緊急事態宣言が解除されたといっても1泊したりして密になるのはまずいこと。また、豊かな森の生態にじかに触れるのはとても重要なことで将来を担う子供たちを対象にした啓発活動を何としても続けていかなければ」と語る。

 今回、親子で参加した札幌市立桑園小学校5年生の五十嵐浩紀君は「お母さんに連れられて来たけれど、ヤマブドウやキノコなど初めて見る物が多かった。空気もきれいでとても良かった」とうれしそうに話す。また、母親の麻里さんは「コロナ禍で家にいることが多かったのですが、自然に触れる機会ができてうれしいです。特にここ(道民の森)は自然の宝庫なので子供たちも喜んでいます」と語る。

 エゾシカネットでは今年の企画として、エゾシカの皮を使っての皮革教室、エゾシカ肉を食しながらエゾシカ肉の普及を促す食事交流会などを予定している。