OCVBがコロナ禍で新たな平和学習を模索

 コロナウイルス感染拡大の影響で修学旅行で沖縄を訪れる学校が激減している。沖縄戦の真の姿を学ぶ機会が少なくなっていることから、沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)は海軍司令部があった旧海軍司令部壕(ごう)(豊見城市)の映像と音響を使った未来型ガイドシステムを取り入れ、新たな平和学習の一環として修学旅行で同壕を見学、歴史や関係者の思いを知ってもらう機会を増やしたいと需要開拓を図っている。(沖縄支局・豊田 剛)


修学旅行生が減少、「3密」回避と誘客強化が喫緊の課題

 昨年6月、終戦から75年、そして、「沖縄県民かく戦えり」の電文で知られる大田実司令率いた旧海軍の司令部壕での慰霊祭を始めて50回目を迎えた。300㍍が復元され、見学できるようになっており、全盛期は年間47万人が訪れていたが、昨年度の入場者数は約15万人にまで減少。それが、コロナ禍の影響で令和2年度は約5万人になる見通しだ。

 それ以上に深刻なのが、修学旅行(教育旅行)の利用者の顕著な減少で、前年度比で9割減を予想している。首都圏を中心に緊急事態宣言が出され、沖縄でも独自の宣言が出されている今年1~2月にかけての実績は0校だった。

 司令部壕を管理するOCVBは、「戦争体験者の高齢化や戦争の風化等により、慰霊参拝や平和学習を取り巻く環境も変化しつつある」と考えている。ウィズ・コロナ、アフター・コロナ時代、3密を避けた形での平和学習のあり方および誘客強化は喫緊の課題との認識から、新規事業の展開を模索している。

旧海軍司令部壕に空間音響ガイドシステムを試験導入

OCVBがコロナ禍で新たな平和学習を模索

スマートフォンやタブレット端末をかざすと空間音響ガイドシステムが働き、さまざまな情報を与えてくれる。現在は実証実験中=2月24日、沖縄県豊見城市の海軍司令部壕公園

 そこで、OCVB管轄下にある旧海軍司令部壕事業所は、スマートフォンやタブレットのような情報機器端末をかざすと、位置情報を認識して映像・音声ガイドしてくれる「空間音響ガイドシステム」の利用を提案。これが観光庁の「誘客多角化等のための魅力的な滞在コンテンツ造成」実証事業として事業採択された。12月からこのシステム実証実験を行っており、3月末までガイドシステムを無料で利用することができる。4月から本格稼働する予定だ。

 旧海軍司令部壕は那覇郊外の高台にある。ガイドシステムは壕内だけでなく、壕外の敷地から音声・映像を見ることができる。専用端末を使うと、展望台や慰霊塔などに案内してもらえ、そこで沖縄戦当時の映像を見ながら説明を聞ける。来場者は当時にタイムスリップした気持ちになる。慰霊塔の前では犠牲者のために黙祷(もくとう)をささげるよう誘ってくれる。もちろん、壕内では、司令官の部屋や下士官の部屋など主要なポイントで、映像と音声による解説を聞くことができる。

当時をリアルに体感、壕内での兵員の心境を学ぶ機会に

OCVBがコロナ禍で新たな平和学習を模索

教育旅行での海軍壕活用に期待する屋良朝治所長=2月24日、沖縄県豊見城市の旧海軍司令部壕事務所

 司令部壕事業所の屋良朝治(やらともはる)所長は、沖縄県平和祈念資料館やひめゆりの塔(共に糸満市)では、住民を巻き込んだ地上戦を学ぶことができるが、「司令部壕では軍人として派遣された人がどんな運命をたどったか、どんな心境で戦い、最期を迎えたのか、という視点で学ぶことができる」とその意義を指摘する。「海軍の軍人として十分な訓練を受けないままの兵員がほとんどで、狭い壕の中、十分に息を吸うこともできないまま、人間らしい生活ができなかった4000人のことをリアルに感じることができる」というのが魅力だと言う。

 また、司令部壕事業所は昨年、ウェブサイトを刷新して、動画や4K3Dパノラマ映像を掲載。現地に行けない人、修学旅行前に事前学習の手引きにも利用可能なように紹介している。

 来年度の沖縄観光の需要予測はコロナ前の令和元年と比べても50%程度にとどまる見通し。県外・国外からの入域者の引き続きの減少が見込まれる中、屋良所長はまずは地元客を呼び込みたい考え。中でも、小中学校の校外学習で積極的に利用するよう、教育関係機関に働き掛けたい意向を示している。