全国でも珍しい養蚕授業で“命の大切さ”を学ぶ
石川県津幡町の県立津幡高校では、全国でも珍しい養蚕の授業が行われている。学んでいるのは総合学科園芸系列の2年生約30人で、今月初めにスタートした。生まれたばかりの蚕(かいこ)の幼虫に桑の葉を与えて、餌やりなどの飼育方法と“命の大切さ”を学んでいる。4回目となる18日の授業では、体長1センチほどに育った幼虫を観察して、前回との色や大きさの違いをスケッチし、順調に成長していることを学んだ。(日下一彦)
石川県津幡町の県立津幡高校で、今月初めにスタート
同校は養蚕をルーツとする学校で、1924(大正13)年に設立された「河北(かほく)農蚕学校」に始まる。2024年に創立100周年を迎えることから、7年前に「養蚕復活プロジェクト」を起こし、授業や部活動で養蚕を取り上げ、校内の農場では桑の木を栽培している。現在、700本余りが育っている。
授業で飼育しているのは、「太平長安」と「緑繭(りょっけん)2号」の2品種で、「太平長安」は白い繭(まゆ)を作り、先の戦争でパラシュート用に制作された経緯がある。そのため生糸は強くて細く、長いのが特徴で、高級生糸品種としても重宝されている。一方の「緑繭2号」は鮮やかな黄緑色で抗酸化力が強く、紫外線のA波、B波の両方をカットすることから、美容分野での利用価値が高い。それぞれ2000頭飼育している。ちなみに蚕は家畜として扱われるので、数え方は1匹、2匹ではなく、1頭、2頭となる。
生徒を指導しているのは、赴任7年目の大丸孝斉(たかなり)教諭(36)で、養蚕体験の普及啓発活動の他、耕作放棄地や遊休地に桑の木を植樹し、里山の原風景の再生と環境保全につながる栽培キットの配布などにも力を注いでいる。
蚕は卵から孵化(ふか)して繭を作るまでに、4回脱皮し、その都度成長する。脱皮する時期を「眠(ミン)」といい、眠になるまでの期間は「令(レイ)」と呼ばれる。4回目の脱皮が終わると繭を作り、その中で脱皮してサナギになる。その期間は1カ月から1カ月半ほどで、生徒は来月中頃まで飼育に取り組み、その頃には体長5~6センチの幼虫に育って繭を作る。
「“どのコ”も可愛い」、詳細に観察し成長過程をスケッチ
今月11日の最初の授業では、生まれたばかりの幼虫に桑の葉を与える「掃立(はきた)て」を体験した。摘み取った桑の葉を水洗いし、包丁で細かく短冊切りにして、餌やりの方法を学んだ。18日の授業では1センチほどに成長した幼虫を詳細に観察して、先回との大きさや色の違いなどをスケッチし、頭に三角形のマークが現れたことなどもきちんと記入した。
幼虫の入っている飼育箱は新聞紙半分ほどの広さで、約1000頭が葉っぱを食(は)んでいる。桑の葉の間で“うごめく”姿に、記者が「キモくないの?」と、あえて愚問をぶつけると、丹精込めて育てている女子生徒たちは「“どのコ“もとても可愛(かわい)いですよ。たくさん食べて、大きくなってほしい」、命の大切さと愛(いと)おしさを感じ、にこやかに応えた。成長の遅い幼虫は箸や指先でつまんで、別の飼育容器に移し替えて観察している。この連休中も当番を決めて、毎日、朝昼夕方と1日3回登校し、観察に余念がない。
澤田樹里愛(じゅりあ)さん(17)は「初めての養蚕ですが、繭になるまでしっかり育てたい。学校の伝統も引き継いでいければうれしい」と話している。大丸教諭は「まず生徒に興味を持ってもらい、少しでも養蚕が広がるように努めたい」と語り、出来上がった繭の利用については「高校生なりにどんなことができるか、そのアイデアを考えてほしいですね」と期待している。