どう対応する? 臨時休校で生まれた”教育格差”


コロナ対策や新学習指導要領対応で課題が山積の学校現場

 今年は、2週間程度というこれまでにない短い夏休みが終わった。新学期は新型コロナウイルス拡散防止のもとに行われた1カ月近い臨時休校による学業の遅れが顕著になった。また、それによって生まれた“教育格差”をどのように埋めるのか、学校のクラスター化防止策の実施、新学習指導要領にどう対応するか、学習の基礎を学ぶ期間が失われた児童・生徒にどのように接するか、学校現場や保護者には課題が山積している。(太田和宏)


文部科学省は学校指導用にコロナ対策マニュアルを提供

どう対応する? 臨時休校で生まれた“教育格差”

「新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう」(日本赤十字社から)

 小中高校の教育現場では、新型コロナウイルス感染防止に向け、手洗い、マスク着用、教室や体育館、校庭での3密回避など、さまざまな対策を取ってきた。だが、一人も感染者を出さない、という対策は難しい。文部科学省は新型コロナを「正しく知って、正しく恐れる」ためのマニュアルを提供している。学校の教師が児童・生徒指導用として使えるように、図入りで細かく説明している。

 「手洗い」ウイルスが手に付いたまま、口や鼻に触れることで粘膜から感染する。石鹸(せっけん)で正しく手洗いをする。「咳(せき)エチケット」飛沫(ひまつ)感染を防ぐため、口、鼻を覆う。正しいマスクの着け方、マスクが無い時はハンカチや衣服の袖で口鼻を覆う。「3密を避ける」密閉、密集、密接しないよう人混みに近づかない。大きな声で会話を避ける。「正しい情報の収集」公的機関などがホームページ等で提供する正確な情報を入手し冷静な行動を取る。「新型コロナウイルス感染症に関する差別や偏見」感染者や家族に対する誤解や偏見に基づく差別は許されない――など、文部科学省のホームページで公表されている。

コロナ感染防止と新学習指導要領の両立に苦慮する学校

どう対応する? 臨時休校で生まれた“教育格差”

8月7日、オンラインで終業式のあいさつをする東京都荒川区の区立第九峡田小学校の岩崎昇校長

 教師たちは、新学習指導要領の“目玉”「主体的・対話的で深い学び」に力を注ぐことに意識を置いていた最中、ただでさえ忙殺される新学期に新型コロナ対策(教室内の除菌や児童・生徒の健康管理など)が業務に加わり、忙しさが増している。小学校高学年から英語の教科化が始まり「分かる楽しさ」「伝える喜び」「歌や踊りで学ぶ」を主眼に置いた授業が難しくなった。英語を母語とし、公立の小学・中学・高校で日本人の英語教師を補助する外国人英語助手(ALT)が来日できないなどの問題もある。

 国語や道徳など、小グループでの対話や討論を重視した授業も感染防止の立場からは難しくなった。

 教員たちは、新型コロナウイルス拡散防止と新学習指導要領の推進という大きな課題の両立に工夫を凝らしながら対応に頭を痛めている。保護者や地域社会が超多忙な先生を支援する活動も出てきているが、まだまだ、人手不足は否めない。

 保護者は「学校でうつされたり、家族にうつしたり、祖父・祖母や持病のある人にうつしてしまうのでは……」と心配の種は尽きない。また、感染者に対する“差別”を心配している。「仕事先でクラスターが発生したら、保護者の感染で子供が差別的な扱いを受けるのでは」「見えないウイルスへの不安から無用な差別を受ける」「熱や咳という症状があっても、差別を受けることが怖くて病院に行くことをためらう」「ウイルス感染者ということで、遠ざける」といった負の連鎖も危惧している。

家庭のネット環境整備も必要、”格差”へのフォローが課題

 文科省や学校、塾が用意した“プリント”に回答するにしても、個人用のパソコンやタブレットを持っていない児童・生徒や、自宅にネット環境が整っていない“教育格差”が生じているケースも少なくない。

 冬場にインフルエンザと共に、新型コロナが大流行する可能性も残っており、こうした“教育格差”をどのようにフォローしていくのか、保護者、学校、教育委員会などの大きな課題として残されている。

 休校の1カ月を穴埋めするため、年間の一大イベントの運動会や文化祭、生涯の思い出に残る修学旅行を延期したり、中止したり、規模を縮小して学習時間を確保する動きもある。教師・保護者は、児童・生徒に「なぜ、自分たちの世代だけ、こんな苦労をしなければならないのか」という“心の傷”が深く残ることを危惧している。