挙党体制で国難突破を
政治部長 武田滋樹
安倍晋三首相の突然の辞任表明を受けて行われた自民党総裁選で菅義偉官房長官が圧勝した。歴代最長内閣を支え続けた官房長官としての実績を背景に、いの一番に党内の勘所(二階俊博幹事長)を押さえて総裁選の大勢を決定した。
菅氏圧勝の要因は、何といっても、新型コロナウイルス感染拡大と経済難という現下の非常事態に即応できる、安倍首相を除く最適の存在であることだ。さらに、戦前生まれの“創業”世代が退いた後、派閥の力をバックにした世襲議員一辺倒だった自民党総裁の顔触れに「新しい風」を吹き込む存在である点だ。
この「継承」と「新風」の絶妙なバランスをうまくアピールして、地方票でも石破茂元幹事長をダブルスコアで下した。ただ、これらの強みはいずれも、コロナ禍と安倍首相の突然の辞任表明という緊急事態下で効力を発揮したものだ。
風向きが変われば、菅新総裁の弱点となり得る。つまり、新総裁は政権運営の実務経験はあっても、自ら宰相としてどのような国を創りたいのかという政権の理念・基本構想を練り上げているわけではなく、その理念・構想に賛同して辛苦を共にし菅氏を総理総裁に頂こうと集った同志がいるわけでもない。政権が窮地に陥った時に支える党内基盤に不安があるということだ。
それにもかかわらず菅氏は「国難に、政治空白は許されない」と自ら渦中に飛び込んだ。その重圧の大きさは、7年8カ月安倍首相を最側近で支えた新総裁が誰よりもよく分かっているはずだ。自民党もそのような事情を了解しながらも、菅新総裁に圧倒的な支持を与えた。
新総裁が進む道は一つしかない。能力主義の人事を行い、自民党の持つ有能な人材を総動員して、挙党体制で現在の国難を突破していくことだ。日本が直面する課題はコロナ収束と経済再生の両立だけでない。人口減少と少子高齢化、コロナ禍で露呈した社会のもろさ。激化する米中対立、中国の覇権主義的な膨張や北朝鮮の核ミサイル開発。安倍首相から引き継ぐ拉致問題や北方領土問題、憲法改正と山積している。
最終決断を下す首相として誰もが納得する結果を積み上げて責任を果たしてもらいたい。