「動き」取り入れ深い学びにつながる道徳授業
磯部一雄教諭主催、現役教師らが札幌で「新たな道徳」研修会
平成30年度から始まり、令和2年から本格始動した公立小中学校での道徳の教科化。生徒個々人に対して数値的な評価は行わないものの、担任教諭は児童生徒の道徳性の成長を見取り、それを評価として記述していく。始まったばかりの道徳の教科化で困惑する教師も多い。そうした中、北海道内の現役教師が集まり、深い学びにつながる道徳授業を作るための研修会がこのほど札幌市内で開かれた。(札幌支局・湯朝 肇)
「皆さんはどんな授業を作りたいですか」――こう問い掛けたのは札幌市立北野台中学校の磯部一雄教諭(59)。8月22日、札幌市内で開かれた「『動き』のある道徳授業の作り方研究・研修会」で同教諭は参加した約30人の現役の教師たちに、生徒が自ら考える道徳授業の作り方を披露した。注目点は、磯部教諭が終始講話を披露するのではなく、参加者が教師役、生徒役となって道徳の授業を作り上げ、それに対して同教諭が評論するところだ。
参加者30人、教師役と生徒役を務めて作り上げた模擬授業
この日、模擬授業を行ったのは5組。その中で、苫小牧市から参加した同市立明野小学校の多田陽佳先生のグループは、小学校5年生教材の「枯れてしまったヒマワリ」をテーマに道徳授業を行った。ストーリーは「小学校5年生でクラスの環境委員会に所属している“ぼく”が担当になっていたヒマワリへの水やりを怠ってしまったがために枯らしてしまった」という内容である。
教材本文には「ぼくは急いで花だんに向かって走った。ずっと水やりをしないで放っておいたのを思い出して、すごく気になったのだ。…。十本のうち五本は元気がなかった。…。それから、晴れた日は必ず水をやるようにした。元気がなかった五本のヒマワリのうち、二本は生き生きとしてきたが、三本はとうとうかれてしまった」とある。
同校の大矢和佳先生が本文を朗読した後、多田先生が会場の数人を指名して、「“ぼく”はどのような方法で水を与えたのか前に出てきて実演してほしい」と指示を出す。その後、全員に向かって、「“ぼく”は、どんな気持ちで水をヒマワリに与えたのか。その“思い”を手持ちの小型のホワイトボードに書き、出来上がったら壇上の大きいボードに張り付けてください」と語る。
さらに、「ほかの人が書いた“思い”に共感できるのがあれば緑のマグネット、逆に、どうしてそう思ったのか、その考えを聞きたいと思ったら青のマグネットをそれぞれのホワイトボードに置いてください」と再度指示を出す。
置かれたマグネットの内容を元に、参加者の思いや意見を語り合いながら、「“ぼく”はどのように行動すべきだったのか」を生徒自ら考え対話していくというのがこの研修会の狙い。ちなみに、この日のボードには、「どうしよう。頑張って元気になって。お願い」とか、「しまった!! やっぱり、少しは気づいていたのに」、「ごめんね。ごめんね。と同時にばれたらどうしよう」など、児童生徒の気持ちになった先生たちの“思い”が並ぶ。
磯部教諭、生徒が自ら考える対話を通した授業展開を提唱
同研究・研修会を主宰する磯部教諭は、北野台中学校では数学と理科を教える先生。その一方で道内の複数校にわたって道徳の授業を受け持つ。というのも、同教諭は道徳が教科になる10年以上前から生徒にとって「生き方」を深める道徳の授業の在り方について研鑽(けんさん)を積んできた。そうした中で現在、生徒が道徳の教材の中の主人公となり、実際に役割演技や動作=動きを用いて場面を再現し、生徒が「自分ごと」として考える環境をつくる。さらに他者の意見を聞き、対話を通して深い学びのある道徳授業にしていくことを提唱する。
ここでのポイントについて磯部教諭は、「深い対話的授業を進めるには、教材との対話をしっかりと行うこと。さらに他者との対話、そして自分の内面との対話。この三つの対話がなければ深い学びにはつながりません」と語る。道徳は、学校の授業の中で生徒が一番元気になれる時間というのが同教諭の持論。北海道で新しい形の道徳授業が始まりつつある。






