小学生がエゾシカによる農業被害などの事例発表
NPO法人エゾシカネット創立5周年の集い
北海道内のエゾシカ(推定60万頭)による農産物や樹皮食害などは依然として拡大傾向にある。道は侵入防止柵や忌避剤散布などさまざまな対策を講じているが、エゾシカの生息数は一向に減る気配はない。それで、ジビエブームに乗って、“駆除”されたエゾシカの肉を有効利用することも考えられている。自然の生態系を守ることを目的としたNPO法人エゾシカネットは創立5年を契機に1月12日、子供たちを対象とした自然学習イベントを、札幌市北区民センターで開催、機会あるごとに発表の場を設けている。(札幌支局・湯朝 肇)
親子で参加できる森や川などでの観察会を企画
人間とエゾシカの共存に重要な子供たちの関心
同センターで開かれた設立5周年記念の集いでは、これまでの活動事例として5人の小学生による発表があった。
「エゾシカは日本に住む草食の野生動物では一番大きく、一時、北海道では絶滅の危機を迎えましたが、逆に今は増え続け66万頭に上ると言われています。その分、農作物を食い荒らす農業被害(年間50億円とも言われる)が発生したり、野生のエゾシカが自動車と衝突する事故も多数起きていて(北海道警察の発表では昨年1年間、全道で3188件発生、平成16年以降最多と報告されている)エゾシカの頭数増加で多くの分野で問題が起こっている」――グラフで紹介しながら、こう語ったのは、札幌市立桑園小学校4年生の五十嵐宏宣くんと2年生の弟の尚宣くん。
発表内容はエゾシカにはこだわらず、札幌市立盤渓小学校4年生の原田百仁花さんは、北国の四季の星座の様子を紹介、また弟の同小1年のばんじ君は、キタキツネや熊など札幌市近郊に生息する野生動物のフンの様子を写真に撮り、それを説明した。最後にエゾシカの骨でスープを取り、肉でチャーシューを作ったシカラーメンが振る舞われ、舌つづみを打った参加者たちは会場に設けられた革製品や角工芸品の展示を見て回った。
エゾシカネットは、平成27年3月に設立し、今年で5年が経過する。当初は、増加するエゾシカ肉の有効利用を図るため、その生態やエゾシカを取り巻く自然環境の周知ならびにエゾシカ肉などの普及といった啓蒙(けいもう)活動に取り組んだ。
その頃の様子を水沢理事長は次のように語る。「当時は会員といっても数十名程度でした。今も続けていますが、まずは実践しようということで札幌市内のゴミ拾いやシカ肉の料理教室、専門家を呼んでセミナーなど行っていました」と語り、さらに「北海道は自然が豊かでエゾシカが生息するには最適な環境を有していますが、それらを体験しようということで、最近は具体的に親子で参加できる森や川などでの観察会を企画していきました」という。
今回、子供たちの事例発表を行った経緯については、「自然観察会を行っていくと子供たちの知識が非常に豊富なことが分かってきました。昆虫や星座など大人顔負けするほどよく知っているのです。それならば、子供たちの発表の場をつくることはできないか、ということで昨年から機会のあるごとに事例発表会を行っています」と水沢理事長は語る。
ちなみに、エゾシカネットは昨年10月上旬、札幌から車で40分ほどの所にある森林総合利用施設「道民の森」で2日間にわたる森林体験学習を行っている。1万2000ヘクタールの広さを持つ道民の森では、昼間は森林の枝打ちや植樹を実施、そして夜の部では子供たちによる発表会を実施した。
「これから北海道の自然を守り、生物の生態系を保全していくのは子供たちです。人間とエゾシカが共存していくためには、広い意味での自然の成り立ちを知ることが重要で、そのためにも子供たちの関心を高めることが求められていると実感しています」と水沢理事長は語る。
エゾシカネットは毎年、「人とシカの共生」「シカの資源普及」「自然環境保全」「社会奉仕」を柱に年間20ほどのイベントをこなしているが、今後は子供を対象にした教育啓発活動を進めていきたいとしている。