「引きこもり」全国ワースト1位の沖縄でシンポ
訪問支援員の人材育成が急務、寄り添う姿勢が安心感生む
学校にも仕事にも行かず自分の部屋に閉じこもる「引きこもり」が日本全国で100万人を超えるとみられ社会問題になっている。沖縄県の推計では少なくとも15~39歳の引きこもり者数約6800人、40~64歳約7000人で、県民100人に1人の割合だと見積もられている。佐賀県を中心に全国の引きこもり問題を解決してきた専門家や引きこもり当事者を交え、当事者目線で引きこもりの解決策を考えるシンポジウムが1月25日、那覇市の沖縄大学で開かれた。(沖縄支局・豊田 剛)
「関わり方次第でマイナスに」、アウトリーチの有効性紹介
「ひきこもった子どもと親たち」と題する公開講座(主催・沖縄大学地域研究所)が1月25日、沖縄大学アネックス共創館で開催され、引きこもり解決に取り組む認定NPO法人スチューデント・サポート・フェイスの谷口仁史代表理事が講演した。谷口氏は、専門職が訪問支援する「アウトリーチ」をいち早く取り入れ、引きこもり解決の“請負人”として全国から引っ張りだこだ。
「教師、臨床心理士、福祉事務所、警察、精神科医、宗教者らが縦割りの支援をすることで、引きこもり者を追い込んでしまった。関わり方次第ではマイナスになってしまう。本人と家族がいっぱいいっぱいであることを理解し、決して(本人や家族を)責めてはいけない」
こう話す谷口さんは、本人が拒絶しないよう入念に事前準備をし、家庭の状況や、これまでの支援の経緯を調べ、趣味などの「価値観のチャンネルを合わせる」作業をしている。例えば、ネットゲームをして、引きこもっている人を相手にするには、自らがゲームについて関心を持って実際にゲームをして、共感を得ることに努めたりする。
また、立ち直りには、集団活動を学ぶこと、家族の理解・支援が欠かせない。DVや貧困など家族が原因で引きこもりが連鎖しているケースも多い。そのことから、家族みんなで「本人らしく地域で生活できるまで“伴走”する支援」を心掛けている。学校や社会への復帰を促し、当事者の伴走者となる訪問支援員の人材育成が急務だと強調した。
沖縄からは、沖縄県子ども・若者みらい相談プラザsoraeの松本大進主任支援員が、沖縄県で、引きこもりが多いのは、将来何になりたいか、どういう職業に就くかなど進路が決まっていないことと相関関係が深いと指摘した。
沖縄県と文部科学省が公表した、いじめや暴力行為などの状況を調べた2018年度児童・生徒の問題行動・不登校調査の結果、沖縄県内の小中学校(国公私立)の不登校児童・生徒数は3125人で、前年度より536人増。このうち小学校は1107人(前年度比324人増)で、1000人当たりの割合は10・9人に上り、全国最多だった。高校(公私立)も40人増の1324人で、1000人当たりの割合29・0人は全国ワーストだった。
学校卒業後、進路が決まらずそのまま引きこもるケースは全国比で2倍に上ると説明。戦争で祖父母世代がゆとりのない中で子育てを余儀なくされ、引きこもりが連鎖してしまっていると述べた。
引き続き、引きこもり当事者とその母親が登壇した。小中学生時期に引きこもり経験がある崎原旦陽(あさひ)さんは、腹痛が原因で学校を休んだのを機に、不登校になった。子供の不登校で自責の念を感じている中、追い打ちをかけるように「甘やかせたからだ」「おまえが悪い」と周囲から言われたという母親の盛子さん。無理やりでも学校に行かせようとして旦陽さんと衝突し、心を閉ざさせてしまったというエピソードを赤裸々に話した。
立ち直りのきっかけは、地域の不登校生徒の復帰を導く施設、適応指導教室に通ったことだという。最初は行くのが嫌でも、「自分のことを気に掛けてくれていることが分かり、うれしかった」と振り返った。
親の立場からは、友人の親がスポーツや野外活動、食事に誘ってくれたことや、同じ境遇の家族と話をし、安心感を抱いたと説明した。
現在、臨床心理士として引きこもり相談も受ける旦陽さんは、谷口さんが主張するアウトリーチの有効性を強く感じている。「当事者がこの人なら会ってもいい」と思えるようなアプローチが必要だと強調した。






