スマホに距離を置く秘訣は?
最近、「デジタル・デトックス」という言葉をよく耳にする。「デトックス」とは、薬物やアルコール依存症の人の体にたまった毒素を排出することを意味するdetoxification(解毒)の短縮形だ。
パソコンやスマホなどのデジタル機器に依存した生活を送る人が、自然豊かな環境に身を置くことで人間本来の感性を取り戻すなどの意味で使われている。そんな言葉が生まれたのは、それだけネット依存に陥っている人が多いからだ。
前回のこの欄で、香川県議会が子供のゲーム依存症防止策として、ゲームやスマホの使用を制限する条例制定を進めていることに関する記事が載った。このニュースに、筆者は遠く米国で、電気や自動車を拒否し、農業を営みながら今も馬車で移動するアーミッシュ(キリスト教の一派)の暮らしを思った。
彼らは、聖書の教えに従い厳格に伝統を守っているとはいえ、文明の利器をまったく使わないわけではない。ガス式の冷蔵庫はあるし、最近では、農産物を売るためにスマホを持つ人もいるが、それを家に持ち込まないなどの工夫も忘れないという。
むやみやたらに文明を否定するのではなく、自分たちの文化や生活規範の破壊につながらないよう、知恵を絞りながら受け入れているのだ。
“世俗”で便利な生活を続ける人々がデジタル・デトックスを話題にするようになった今、アーミッシュのコミュニティーを訪ねて都会からやって来る人が増えているそうだ。
パソコンやスマホを使っても、どうやったら依存症にならずに済むのか。中には、彼らの暮らしにその秘訣(ひけつ)を探ろうとする人もいるのかもしれない。
その答えは一つではないだろうが、かつて彼らの住むペンシルべニア州ランカスター郡の農村を訪れた筆者は、守るものを持つ人間の強さを感じた。
(森)