日本ももっと批判しよう、世界各地で続く“小天安門”

山田 寛

 

 非暴力デモが暴力で弾圧され、多数の死傷者が出続けている。

 直近ではスーダンだ。今月初め、首都の国軍司令部前などに座り込んだデモ隊が銃撃され、120人以上が死亡、500人以上が負傷、40遺体がナイル川に投げ込まれたという。

 昨年末から、バシル長期独裁政権への市民デモが続き、既に12月に40人もの死者を出した。バシル大統領は4月に軍のクーデターで退陣したが、一難去ってまた一難。即時民政移管を拒む国軍に襲われた。

 軍の後ろ盾は、地域で8年前の「アラブの春」の再来を防ごうとするサウジアラビアとアラブ首長国連邦だった。

 サウジアラビアでは、米紙などによれば、「アラブの春」の時期に10歳で子供デモのリーダー役を務めた少年が長期拘留され、死刑になりそうだという。デモは何でも弾圧なのだ。

 一方、香港の逃亡犯条例反対デモの様に、武力弾圧の危険に抗して急拡大し、一応の成果をあげつつあるデモもある。

 今年3月、バチェレ国連人権高等弁務官は、スーダンとジンバブエ、カメルーン、ベネズエラ、ハイチのデモ武力弾圧、フランスの黄色いベスト運動への対応に、深刻な懸念を表明した。

 そして忘れてならないのが、パレスチナ・ガザ地区のデモ参加民衆。国連調査では、イスラエル軍の銃撃で昨年3月30日~年末に189人が死亡した。うち45人は子供とか。ガザでは、生活苦抗議の住民デモに対しては、同地区を支配するイスラム原理主義組織ハマスも酷い暴力を行使したと報告されている。

 さらに昨年半ば以降、ロシア、トーゴ、モーリタニア、ナイジェリア、チャド、ギニア、ガンビア、マリ、コンゴ民主共和国、アルジェリア、ニカラグア…暴力弾圧はいっぱいだ。

 流血ではないが、ベトナム戦争末期の1974年、当時の南ベトナムの首都サイゴン(現ホーチミン市)で、ゴ・バ・タイン夫人の壮絶なデモ行進をフォローした思い出は、私の胸に鮮烈に残っている。反政府だが共産側でもない第3勢力の最強硬派女闘士で、平和と和解を要求し続け10年間で5回も投獄された。獄中ハンストで体重を21㌔にまで減らしながら、出獄するとデモの先頭に立った。警官隊に厳しく囲まれた数十人の行進。市民は近寄れない。いつ武力行使されるか、弱った体が灼熱(しゃくねつ)の路上に倒れるか分からない。鬼気迫る姿だった。

 今月4日の中国の「天安門事件30年」は、日本の新聞も大きく報じた。同じ時、地球の裏側のスーダンのデモ惨劇は、0段(報道なし)~国際面2段の小さな扱いだった。

 気になるのは最近の日本政府の反応だ。天安門30年にも、香港デモにも、欧米と比べて政府の反応は明らかにぬるかった。日中関係改善気運を損ないたくないのだろう。北朝鮮とは、日朝首脳会談実現を目指しているから、北の人権侵害非難の先頭に立つのをやめたのだろう。ロシアとも…。

 だが、日本ももうそんな忖度(そんたく)外交から脱皮すべきではないか。米国などとインド太平洋戦略で協力し、米・イラン間のパイプ役を担うなど、安倍積極外交は世界で存在感を増している。どの国にも言うべきことははっきり言う。相手から、日本は手強(てごわ)いぞと一目置かれ、その上で関係をしっかり構築して行く。今後はそんな外交手腕を示せねばならない。 今日の世界の“小天安門”をきちんと批判、非難し、暴力不行使を働きかける。“各地のゴ・バ・タイン夫人”に関心を払う。それを、日本が目指すべき「人権と民主主義と自由と平和」尊重の積極外交の軸にしてほしいと思うのだ。

(元嘉悦大学教授)