自爆テロ犯とは違う、特攻隊員の名誉を守ろう

山田 寛

 

 神風特別攻撃隊で戦死した若者たちの霊がさぞ嘆いているだろう。kamikazeが自爆テロとその犯人を表す名詞として、また大量に用いられたからである。

 先月21日にスリランカで起きた同時多発テロ。「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う国内過激派組織による自爆テロで、約250人もの犠牲者が出た。その報道でイタリア語、仏語などの外国メディアに「カミカゼ」があふれたのだ。

 事件発生2週間後Sri Lankaとkamikazeをキーワードにしてネット検索したら、イタリア語67、仏語37もの関連記事が見つかった。英語、スペイン語も少数あった。

 「カミカゼ・テロリストが9人も」「カミカゼが警官3人を殺した」「カミカゼの教会侵入を阻んだ英雄」などなどの見出しが躍る。仏AFP、伊ANSAといった大国際通信社の配信やポータルサイトMSNにも。そこで欧州、アフリカ、中東、中南米など各地のメディアに使われている。そしてネット、SNSでカミカゼが世界を飛び回る。

 英語メディアでは少数だが、例えば米紙ワシントンポストは、事件直後、自爆攻撃の簡単な歴史を紹介した中で、1番目に1881年のロシア皇帝暗殺事件、2番目に第2次大戦の日本軍の神風、3番目に1980年代のレバノンの自爆テロ本格化の順番で並べている。これでは特攻隊は完全に自爆テロの先輩だ。

 私は2015年12月に、「仏メディアにカミカゼがいっぱい」という記事を書いた。その前月、ISによるパリ同時多発テロ事件で約130人が死亡。仏メディアには50年前から、カミカゼがテロ関連普通名詞として少しずつ使われてきたが、この自爆を含む特大テロで一挙に普及した。だが、今回のカミカゼ旋風はイタリアも含め、一層広範になった。

 権威ある仏語辞典などにも、kamikazeの語意として特攻隊と「自殺的犯罪の行為者」とが記されている。今後、大自爆テロが起きる(ないよう願うが)たびにカミカゼがあふれ、後々の代まで特攻隊員の名誉は毀損(きそん)され続ける。

 定着してしまった語を使ってくれるなとは言い難い。だが放っておいてよいだろうか。

 戦争で敵の軍艦に体当たりした特攻隊と、平時に一般市民を無差別惨殺する自爆テロは大違いだ。テロ犯は自分たちも聖戦中と言うかもしれないが、市民は聖戦など知らず無防備である。特攻隊員の多くは、国の将来の平和と共に、妻子や家族、愛する人々の幸せを祈りながら死んだ。「死ねば天国で多数の美女に囲まれ、永遠に優雅な生活ができる」などと吹き込まれ、また女性や子供も自爆させるテロ犯とは、天地の差がある。

 日本は歴史戦で、事実と違う碑文つきの「慰安婦少女像」が世界に増殖しても、ほぼ手をこまぬいてきた。

 「旧日本軍は全て×。特攻隊など×××」と決めつけられて済むものではない。歴史事実は明確に説明し、理解を広げ、特攻隊員の名誉回復に努めたい。とりあえず主ターゲットは仏語、イタリア語圏だが、外務省、在外公館、日本文化センターなどはHP、SNS,新聞広告など様々な方法で、国際広報キャンペーンに真剣に取り組むべきだ。「再びこんな命の尊厳を無視した戦法はとってはならない」「戦争も起こしてはならない」(南九州市の知覧特攻平和会館HPから)と認めながら、でも「神風特攻隊≠自爆テロ」であり、特攻隊員は立派に戦った軍人で、テロリストではないと、強力に訴えたい。

 特攻平和会館のHPにはすでに英文、中文はある。仏語、イタリア語なども加え、この訴えを明示してぜひキャンペーンの一翼を担ってもらいたい。

(元嘉悦大学教授)