「ツキディデスの罠」理論の誤り
「米中戦争」は西洋学者の偏見
米国と中国は韓国外交の2本の軸だ。韓米同盟と韓中協力を両方とも守らなければならない。重要なのは米中間の相互関係だ。戦争と進化、2種類の理論がある。米中が戦争に向かうなら韓国は選択がない。しかし米中が進化に向かうなら韓国は両国との関係を共に守ることができる。
多くの西洋学者は米中間の戦争を予想している。ある学者は中国がアラブ世界と力を合わせ、米国に対抗するだろうと予測する。西洋式偏見だ。
また国家安保専門家のグレアム・アリスンは著書「米中戦争前夜」で戦争に向かっている米中は“ツキディデスの罠”を抜け出すことができるのかと指摘し、米中戦争の可能性を予告した。
「ツキディデスの罠」とは覇権国家と新興強国が戦争することになるという理論だ。古代のスパルタとアテネが、20世紀の英国とドイツがそうだった。
大多数の西洋学者は西洋の歴史の中に東洋を投じて未来を見る。このようなパターンは西洋の思想家に広まっている見解だ。特に19世紀のドイツの哲学者ヘーゲルがこうした思想を西洋に広く伝えた。彼は西洋が先導している世界文明に遅れた中国は絶対に追従できないと評価した。西洋中心的な見解だ。英国の哲学者バートランド・ラッセルはヘーゲルを「中国が存在するということ以外には中国について何も知らない人」と評した。
幸い一部の西洋学者は「東洋・西洋は別の思想体系を持っている」と見始めた。中国の歴史と外交には西洋と違った特長がある。中国外交は孫子の兵法に指摘されている「水」の戦略を使う。中国は徐々に戦略的優位を占めようとする。危険な西洋式の戦争は排撃する。進むことができる方法があれば水のように進む。障害物があれば水のようにとどまって待つ。西洋のチェス式の戦争論とは全く違うやり方だ。
最優先は経済だ。中国は経済面で米国と協力と競争、時には衝突もする。しかし戦争はしない。中国は軍事面では米国と競争する意思がない。専門家たちは2050年になれば中国が経済的1位、米国が安保軍事的1位を維持するだろうと予測している。
中国は3000年の歴史上、軍を国境外に進出させ膨張政策や占領政策を使ったことがほとんどない。モンゴルと清は中国をのみ込んで中国の領土を拡大する結果をもたらした。平和共存が西洋の膨張より“自己保存”に有利だったためだ。
最近の200年の間、西洋のパラダイムが世界を支配してきた。それで多くの西洋の思想家は中国も西洋のパターンに倣うという考えを持つようになった。しかし東洋の歴史、その中に含まれた哲学を把握する人には未来が見える。21世紀の米中関係は西洋のチェスでなく東洋の囲碁式に展開する。米中関係は戦争でなく「平和共存の中の膨張」という進化に従うことになる。
もし中国が世界第1位の国家になるとすれば、戦争でなく多次元的な優位の確保によって自然になされることであり、このような哲学を持ってわれわれの外交の枠組みを組み立てなければならないだろう。
(崔英鎭(チェヨンジン)元駐米大使、5月13日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。
ポイント解説
「慕華」で霞む共産主義の正体
中国は「水」の如(ごと)く、時間はかかるが穏やかに戦略的優位を確保して行く―。元駐米大使と言えば、最高の外交官であると同時に相当な知識人でもある。欧米中心に回っていた世界に東洋の価値が浸透して行き、やがて共存の中で利益を拡大して行く、中国は平和共存を志向する国家だとの見方だ。
だが、この外交官に決定的に欠けているのが、今の中国が共産主義による一党独裁国家であるという観点だ。民主主義もなく、言論・宗教の自由もない。人権弾圧、少数民族の抹殺、漢文化の強制、等々、自らが世界の中心と捉える中華思想だけでも厄介なのに、これに共産主義が加味されて、他国にとっては迷惑この上ない傍若無人な振る舞いを憚(はばか)らない国を「平和」勢力とはよほど目が霞んでいる。
歴史上長らく中国の影響下にあった朝鮮半島では「慕華」が遺伝子に組み込まれている。特に漢籍だけを学問と見ていた知識人にそれが強く、しかも大陸に異民族王朝が誕生すれば、強大な力を恐れて表向き臣従するものの、元の主人「中華」への忠誠は捨てない。むしろ、自らが中華の継承者であるとすら錯覚する。小中華思想である。
いってみれば、今の中国は共産主義という異民族王朝が支配する時代だ。韓国は力を恐れて服従しているにすぎず、共産主義への観点が薄れている韓国の現状を映している。
(岩崎 哲)