移民問題タブー視をやめよう

出入国管理法改正に賛成だが

山田 寛

 外国人労働者受け入れ拡大のための出入国管理法改正案に対し、「拙速」との批判が左右から出ている。だが、少子高齢化社会の助っ人集めと、技能実習、留学、難民申請などを名目にした“ゆがんだ”就労横行の是正のため、必要な治療だろう。ただ、その後一層大きな手術も考えるべきではないか。

 私は難民問題に関わり、“ゆがみ”を感じ続けてきた。日本の制度も外国人もゆがんでしまう。

 法務省によると、今年前半の難民申請者5586人のうち国籍別1位はネパール。14、15年も1位、16年は2位だった。なぜ? 最近まで難民申請者はほぼ就労OKだったからだ。

 申請者には元留学生、元技能実習生も少なくない。

 今年6月末現在、外国人留学生は32万人を超えた。政府は08年に「留学生30万人受け入れ計画」を立て、10年に日本語学校生なども留学ビザに編入した。その後急増したのが、ベトナムやネパールなどからの留学生である。17年には、1位中国に次ぎ2位ベトナム(12年より15倍増)、3位ネパール(同10倍増)だった。ネパールはアジア最貧の小国なのに向学心旺盛? だが、出稼ぎ目的留学生も多いのだ。

 現地のブローカーに「日本に留学すればアルバイトし放題」と言われ、150万円ほども借金し、払い込んで来る。

 来日後、留学生は週28時間しか働けないと知り、学校をやめ不法就業する。ビザがなくなり難民申請ともなる。

 技能実習生は約25万人。1位ベトナム、以下中国、フィリピン、インドネシア。やはりブローカーが介在する。そして中小企業の3K労働に使われ、低賃金を実感し、別の就労を求めて失踪もする。

 法務省は今年初め難民申請者の就労許可を厳格化し、今年前半の総申請数は久しぶりに減少した。留学生の資格審査も、東京入管局が今年10月期から厳しくし、ネパール人、スリランカ人、バングラデシュ人などは認定率がガタ落ちしたと報じられている。

 ネパールが憎くて例に挙げたわけではない。以前、難民申請中の非識字のネパール人中年女性と話をした。夜の町工場でコンビニ用おにぎりを作っていた。そんな夜間仕事、日本の若者は寄り付かない。でもコンビニのおにぎりは必需品だ。礼を言いたくなった。

 裏道就労を表通りへ正常化しよう。法務省入管局が増強され庁となるのも当然と思う。

 しっかりルールを決め、管理し、支援をすることが大事。5年間で総数34万人といった風呂敷の数字にはこだわらない。ブローカーの介在は極力排除してほしい。アフリカ人にも「なぜ日本に?」と尋ねると、「ブローカーに『日本のビザならとれる』と言われた」との答えが結構返って来て、首をひねってしまう。

 しかし、その後にまだ大きな問題がある。官民とも移民問題をタブー視し続け、安倍首相も今回の改正案が移民受け入れ法案でないと強調する。だが今後それで済むだろうか。

 在留外国人は260万人を超えた。元東京入管局長の水上洋一郎氏は指摘する。「そのうち、特別永住者、永住者、定住者、永住者の配偶者等、日本人の配偶者等の五つの在留資格の合計が6割を占める。帰化者、国際結婚による子も多い。彼らは実質的に移民。移民国でないというのは神話だ」。そして、外国人の受け入れ、在留に関する全問題を主導する外国人庁(交流共生庁)を内閣に設置する必要性などを訴えている。

 一方、スパイやテロリストの流入に対処する本格的な防諜(ぼうちょう)機関の必要性も強まる(19日付本紙社説)。移民問題に正面から取り組む時がもう来ている。

(元嘉悦大学教授)