ノーベル平和賞決定と日本、戦後70年談話が泣いては困る
今年のノーベル平和賞受賞者は、紛争下の性暴力と闘ってきたコンゴ民主共和国のデニ・ムクウェゲ医師と、イラクの少数派ヤジディ教徒の女性、ナディア・ムラドさんに決まった。内戦状態の国で4万人以上のレイプ被害者を助けた医師と、自身を含む同教徒数千人が、過激派組織IS(イスラム国)の性奴隷にされた事実を世界に訴えてきた女性と。
このニュースを朝毎・東京新聞は超大扱いで報じた。日本の慰安婦問題の「加害の歴史」に言及した記事もあった。左派が受賞を大歓迎するのは分かる。だが、政府や保守派も、この受賞の意味と影響をしっかり受け止め、世界と日本のため決意を新たにすべきではないだろうか。
私は以前本欄でナディアさんのことを書いたし、2人の受賞を高く評価したい。だがそこで思い出すのは、2015年の安倍首相の戦後70年談話の中の次の宣言である。
「20世紀の戦時下、多くの女性の尊厳や名誉が深く傷つけられたことを、胸に刻み続ける。そうした女性たちの心に強く寄り添う国でありたい。21世紀こそ女性の人権が傷つけられない世紀とするため、世界をリードして行く」
今も世界各地で、女性が性暴力の犠牲になっている。ミャンマーから脱出したロヒンギャ難民の女性たちも、ナイジェリア北部を本拠とするISの弟分組織「ボコハラム」に拉致された少女たちも。
こうした女性への支援の先頭に立つのは、「人権より力」を旨とする強権国家にはできない。でも難民・移民の大量流入に悩む欧州諸国や「米国第一、取引第一」で忙しい国も当面難しいだろう。日本の役割は大きい。
だが、70年談話がどれだけ実践されているだろうか。外務省ホームページでも、以前からの継続案件「国連開発計画(UNDP)のアフガニスタン女性警官研修への支援」が目につく程度だ。
一方、8月に開かれた国連人種差別撤廃委員会の対日審査会で、また慰安婦問題が持ち出され、「慰安婦への人権侵害を認めよ、被害者と家族への十分な施策に取り組むべし」との最終見解が発表された。
委員会では日本の左派NGOが活躍し、政府代表団の反論はまだ「日本がいかに謝罪をしてきたか」が中心だ。保守派NGO代表で会議に参加した山本優美子氏は、「謝罪は犯罪を認めたことを意味し、最後に強制連行や性奴隷を否定しても理解されない」と指摘する。
韓国内約100カ所と、米国など8カ国・地域に「慰安婦像」が設置された。その撤去、少なくともフェイク碑文の訂正を、政府はどれだけ強力に求めてきたか。日本政府の抗議で撤去されたのは、マニラ1カ所ぐらい。ほかは現地の日系市民らが、抗議や訴訟で頑張っているだけの様に見える。
日本政府も、歴史的事実の部分はきちんと認めながら、政治利用やフェイクと断固闘うべきではないか。それをせずに世界をリードなどできない。
韓国政府は今夏、日本軍慰安婦問題研究所を開所し、「戦争・女性・人権などの研究のメッカにする」(鄭・前女性家族相)、「国際社会で慰安婦問題が『戦時の女性への性暴力』という非常に深刻な人権問題として位置づけられるよう計画する」(康外相)と意気込んでいる。韓中、また北朝鮮までもが、今年の平和賞決定を見て、対日攻勢の帆に強力な追い風を得た思いでいるだろう。
紛争下の性暴力問題を韓中や左派の専売特許カードにさせ、眺めていては70年談話が泣く。女性の人権を護(まも)り、史実と日本の国益を護り、世界をリードするため、もっと汗をかかなければ…。
(元嘉悦大学教授)











