科学・技術大国を目指す中国
米コラムニスト ロバート・サミュエルソン
研究・開発費、世界1位に
米の技術基盤の活性化を
全米科学財団(NSF)と全米科学委員会(NSB)は、米国の技術の現状に関して、隔年で作成している「科学・技術指標」を公表した。研究・開発、技術革新・技術者に関してデータと数字を示したものだが、報告の主要な結論は違うところにある。中国は科学的、技術的大国になった、またはなろうとしているということが焦点となっている。
まさに予想されていた通りだ。要するに科学と技術は、経済的に発展した社会と軍事力のための知識基盤を構成するものであり、中国は、その両方で世界のリーダーになることを目指しているということだ。実際の数字を見れば、息をのむような速度でそれが起きていることが分かる。
◇技術労働者が急増
四半世紀前、中国経済は小さく、ハイテク部門はほとんど存在しなかった。そして今、中国で何が起きているのか、報告は次のように指摘している。
―中国の研究・開発費は世界第2位になり、2015年の世界の研究開発費2兆ドルの21%を占める。1位は米国で26%。しかし、このまま増えていけば、中国の研究・開発費は間もなく、世界第1位になる。2005年から15年に中国の研究・開発費は年平均18%増加した。米国の4%の4倍以上だ。
―中国人チームは、大量の技術論文を書いている。米国と欧州連合(EU)は生物医学の論文が多いが、工学に関する論文では中国の方が多い。米国の論文は、中国の論文よりも頻繁に引用される。これは、基礎研究に関するテーマを扱っている論文が多いということを示唆しているが、中国がこれに追いつこうとしている。
―中国では、技術労働者が急激に増加している。科学と工学の大学院生の数は、00年の35万9000人から14年の165万人に増加した。同じ期間に米国では、48万3000人から、74万2000人に増加した。
科学技術が広がっているだけではない。いっそう野心的になっている。中国のハイテク製品の生産はかつて、他国で生産された高度なコンポーネントを組み立てることで成り立っていた。ところが報告によると、今では、「スーパーコンピューターや小型ジェット機など」の難しい分野にまで進出している。
確かにそのための能力はある。しかし、中国は特許の取得で後れを取っている。この10年間、米国の特許の半数は米国の企業と投資家が取得、残りの大部分は欧州と日本だ。中国の人口14億人が米国の4倍以上であることも忘れてはならない。当然ながら、もっと多くの科学者、技術者を必要としている。
国家、経済、人種、民族間の紛争のない健全な世界なら、このようなことは特に驚くようなことではない。技術は移転可能なものだ。中国で受けた恩恵は、他の国でも享受できるはずであり、その逆もある。しかし、米中経済安全保障検討委員会がよく指摘するように、現在のような対立の多い世界では、中国の優れた技術力は、脅威となる可能性がある。
その一つは軍事力だ。中国が、人工衛星、ミサイル、サイバー戦、人工知能、電磁兵器などの重要技術で大躍進を遂げれば、戦略バランスが大きく崩れ、場合によっては戦争が勃発することもあり得る。
◇移民制度見直しも
検討委が警告しているように、戦争にならなくとも、人工知能、通信、コンピューターなどの新産業を支配しようとし、企業の競争力を守るために補助金を出し、差別的な政策を続ければ、経済戦争につながる可能性もある。
検討委の最新年次報告は「コンピューティング、ロボット工学、生命工学などの産業は、米国経済の競争力の柱であり、数多くの高賃金の雇用と付加価値の高い輸出品を生み続けている」と指摘している。米国が「世界の成長を牽引(けんいん)していく世界的リーダーとしての地位を失えば」、米国経済は弱まる。中国が米国企業の情報を盗み出すこともリスクの一つだ。
この技術的競争に最もうまく対応する方法は、米国の技術基盤を再活性化させることだ。移民の親族ではなく、高い能力を持つ新たな移民が来られるよう移民制度を見直す、新たな技術開発へ国防費を増額し中国に対抗する、「基礎研究」の予算を増やすなどが考えられる。
NSFのフランス・コルドバ長官は、「私たちは、知識をめぐって世界と競っている。今は技術革新でトップにいるかもしれないが、他の国々が急速に進出している」と語っている。
中国が経済の車にただ乗りして、先進技術を獲得することは十分あり得る。はっきりとは見えないが、何よりも重要なものは、米国がこの点を認識し、何らかの対応をする意思と能力を持つことだ。
(1月20日)