「習近平思想」 文革の悲劇無視する個人崇拝


 中国共産党が、習近平国家主席(党総書記)の名前を冠した指導思想を憲法に明記する方針を示した。憲法改正案は3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で審議され、可決される見通しだ。

全人代で憲法に明記

 憲法に追加されるのは「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」だ。この思想について、習氏は「全党・全国人民が中華民族の偉大な復興の実現に向けて奮闘する上での行動指針」と説明。昨年10月の党大会で党の最高規則である党規約にも盛り込まれた。

 現役の最高指導者の名前が憲法に記されるのは毛沢東以来。習氏の権威は一層高まることになるが、個人崇拝の動きが強まることが懸念される。

 党機関紙・人民日報は「断固として核心を押し立て、忠誠心を持って領袖(りょうしゅう)に付き従う」ように呼び掛ける記事を掲載した。「偉大な領袖」はかつて毛に使われた呼称。人民日報系・環球時報は「『領袖』は単なる指導者を超える意味があり、最も高い威信を持ち、最も有能な指導者に与えられるものだ」という専門家の解説を載せた。

 しかし、共産党は毛が引き起こした文化大革命の反省から1982年に個人崇拝を禁じたはずだ。文革は66年、数千万人に上る餓死者を出した「大躍進」政策に失敗した毛が、自身の権威と求心力を取り戻すために発動。毛を崇拝する紅衛兵は、劉少奇国家主席(当時)ら指導者や知識人、教師らに徹底した自己批判を強要し、激しい暴行を加えた。1000万人以上と言われる死者を出したほか、大量の文化遺産も破壊された。習氏への権力集中は過去の教訓を無視するものであり、大きな混乱を招きかねない。

 さらに、全ての公職者の汚職を取り締まるため設立準備が進んでいる「国家監察委員会」も憲法で位置付けられることになる。習氏は党内に蔓延(まんえん)する腐敗に「党も国家も滅びる」と自浄作用の発揮を訴え、反腐敗闘争を進めてきた。

 だが、実際は政敵を追い落とすための手段だったと言わざるを得ない。今後は非共産党員も腐敗摘発の対象となり、習氏の権力基盤は一層強化されよう。習氏は終身体制を狙っているとの見方もある。

 こうした権力集中が対外政策に及ぼす影響にも注視する必要がある。習氏は共産党大会で強国路線を鮮明にし、強引な海洋進出をさらに強めるのではないかと懸念されている。

 また、台湾に対して強硬な姿勢で臨む恐れもある。習氏は党大会で、中国本土と台湾が同じ国に属するとの「一つの中国」原則を確認したとされる92年合意を受け入れるよう、台湾の蔡英文政権に改めて迫った。

 習氏が建国の父である毛を超えたと認められるには、中台統一を実現する以外にない。台湾をめぐる中国の動きにも注意を要する。

日本は十分な警戒を

 日本は今年が日中平和友好条約締結から40周年となることから中国との関係改善を目指している。だが、習氏への「個人崇拝」の動きには十分警戒しなければならない。