米欧・韓国の選挙 外国の介入に懸念
昨年11月の米国から今月のフランス、韓国まで、注目の大統領選挙が終わった。欧州では12月のオーストリア大統領選、3月のオランダ総選挙もあった。
米欧選挙の勝敗因は、失業、移民・難民、テロ、白人貧困層の不満、反グローバル主義など、いろいろ指摘されてきた。
私は、かつてパリで、日本の駐仏大使から聞いた話も思い出した。大使は、ニューヨーク総領事時代はキャデラック、パリではベンツと最高級車に乗っていた。車が人混みを通る際、米仏市民の視線の違いを感じた。米国では「いいなあ。自分もいつか乗れるようになりたい」と積極視線だが、階層社会のフランスでは「別世界のおエライさんの車。早く行ってしまえ」と、消極反応だったというのだ。
トランプ不動産王はアメリカンドリームの体現者で、白人貧困層も期待したくなるが、仏大統領に納まりやすいのは、あくまでマクロン氏のような国立行政学院(ENA=最高級の官僚養成校)出身の超エリートなのだろう。
だが、一連の選挙を通じて現れた最大の問題は、選挙への外国の介入が常態化しつつあることではないか。スマホとハッキングとフェイク(偽)ニュースの時代。工作員による扇動も容易に増幅される。
各国情報機関によれば、ロシアのハッキング介入は、米クリントン候補(落選)や、仏マクロン候補(当選)の足を引っ張り、オーストリア、オランダでも認められた。今年11月のドイツ総選挙も、標的になりつつある。
トランプ大統領が先日、選挙中の自陣営とロシアの関係を捜査している米連邦捜査局(FBI)の長官を電撃解任したのは、捜査をあいまいに終わらせたいからだろうか。
仏決選投票で、極右「国民戦線」(FN)のマリーヌ・ルペン候補は、かつてない33・9%もの得票を得た。オーストリアの極右「自由党」のノルベルト・ホーファー候補も負けたが、より重い46・2%を記録した。オランダ極右「自由党」は、20議席で第2党だったが、選挙前より8議席も増やした。
これらの党は一昨年、欧州議会で親ロシア連合を結成した。ルペン氏らは再三訪露し、プーチン大統領とも会談した。FNは、ロシアの銀行から計1100万ユーロ(約14億円)の融資を受けてきた。ロシアのひも付きならルペン氏が負けてよかった、と強く思う。
韓国では、本紙連載でも報じられたように、北朝鮮の工作と親北派の強化が、前大統領弾劾から左派の文在寅大統領誕生まで、社会を動かした。平壌放送が、昨年から乱数表数字読み上げを再開した目的は不明だが、北のミサイル乱れ打ちも金正男氏暗殺テロも、文候補の支持率に影響しなかったのは、工作の成果だろう。
2000年秋、金大中・金正日両氏の南北首脳会談の数カ月後、私は韓国で開かれた、日韓の研究所による朝鮮半島危機の模擬演習会議に参加した。街で人気だったという金正日Tシャツは売り切れだったが、親金正日・親北ムードの高揚は続いていた。韓国側の軍関連研究所から「会議はひっそりと。金正日氏の悪口は避けたい」と言われ、面食らった。
その後、北の核開発は加速し、現危機となった。文・新政権下の韓国で、金正恩Tシャツが飛ぶように売れる日が来るのだろうか。
中国も、例えば2014年の沖縄知事選で翁長現知事当選のため、駐福岡総領事らが暗躍したと、青山繁晴・参院議員らが暴露している。
民主主義国の選挙への専制・独裁国家の介入が当たり前になったら、民主主義の土台が崩壊するだろう。
(元嘉悦大学教授)







