妥協せず9条改正を

 日本国憲法施行70年を迎えた5月3日、「二十一世紀の日本と憲法」有識者懇談会(通称・民間憲法臨調)が主催する第19回公開憲法フォーラムが都内で開かれた。

 会場には1000人を超える人が詰め掛けた。私も毎年、参加しているが、今年は例年以上に盛り上がりをみせた。同時にフォーラムの模様は、全国40会場にインターネット配信で同時中継された。

 フォーラムには、安倍晋三首相のビデオメッセージが寄せられた。

 安倍首相は自民党総裁としてのメッセージと断ったうえで、「日本国憲法第9条の1項、2項を残し、新たに自衛隊の存在を明記した条文を追加した憲法改正を行い、東京五輪・パラリンピックが開催される平成32(2020)年を「新しい憲法が施行される年にしたい」と明言した。

 安倍首相が、第9条の具体的な改正と施行時期に言及したことは初めてであり、大いに評価したい。だが、第2項の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」の文言を残したまま、自衛隊の存在を明記することには、いささか違和感を覚える。現在の自衛隊の戦力から考えれば、明らかに第2項は実態と矛盾する条項だからだ。

 連立を組む公明党が「加憲」のスタンスを取っており、公明党に配慮した改正に向けた手法ではないかともいわれているが、妥協の産物としての改正は、絶対に避けるべきである。

 第2項の削除、もしくは修正をしないのであれば、自衛隊の存在を新たに明記したとしても、現在の日本国憲法と何ら変わらない「憲法の空洞化」を招くことにつながるのではないだろうか。

 日本周辺の安全保障環境が以前よりも悪化していることは、誰の目にも明らかであり、日本国民の多くが中国の軍拡や北朝鮮の核・ミサイルを脅威だと認識しているはずだ。自衛隊の存在は、抑止力としての機能を果たしている。

 安倍首相には、自衛隊をしっかりと「国軍(戦力を持った軍隊)」と位置付ける憲法改正を目指してもらいものだ。

(濱口和久)