力の3人組の横で、欧州は選挙の年を迎える

山田 寛

 年末の欧州。テロ警戒の緊張感とともに、欧州政治への危機感が広がる。トランプ米次期大統領、プーチン・ロシア大統領、習近平・中国主席の「3人組」の力の支配の横で、欧州連合(EU)が壊れてしまうのでは…という危機感だ。

 「3人は断固たるナショナリストで、自分たちで世界をつくろうとする。あちこちで、自由民主主義の理想と国際法秩序は力を失い、ブリュッセルだけがその最後の夢を追っている。」「プーチンは、EU内で欧州計画の破壊を狙う極右政党に財政支援をしている。トランプはEU軽視か無関心だ。習も欧州内の分断をうまく利用する。」「存続するため、EUは強くなければならないが、今や最弱だ。」(仏ルモンド紙アラン・フラション記者)

 プーチン氏は最近の大統領令で、EUが「地政学的に膨張し、世界の安定を覆そうとしている」と、敵意を露(あら)わにした。だから、反EUの右翼・極右政党を支援しても不思議はない。オーストリアの自由党(先の大統領選で敗れたが46%の票を得た)は先日、プーチン与党の「統一ロシア」と協力合意書に調印した。フランスの国民戦線(FN)幹部も最近訪露し、「ロシアとは運命共同体」と明言した。来年4~5月に仏大統領選が行われる。マリーヌ・ルペンFN党首が勝つ可能性もある。彼女が勝てば、EU離脱国民投票実施へ走り出すだろう。

 1970~80年代、旧ソ連は、西欧の極左過激テロ集団を支援した。今、ロシアは右翼と手を組む。

 80年代、パリ駐在記者の私は、興隆期のFNの下院議員、ブリュノ・ゴルニッシュと親しくなった。日本に留学し日本人と結婚、リヨン大学教授で日本文化を講じていたが請われてFN入りした、上品な青年だった。FNの選挙集会も、候補者も聴衆も中流階層が主で、意外に静かで大人の雰囲気だった。その後、FNの舞踏会に招かれたが、貴族趣味で、ジャンマリー・ルペン党首(当時。現党首の父)も丸い体で優雅に踊っていた。

 そんな具合だから、当時のFNは大衆パワーに欠ける感じで、その後伸び悩みもした。だが、昨年と今年の欧州議会選挙や地方選挙で、4分の1以上の票を獲得、難民・移民、テロ、ユーロのせいともいう経済の低迷、社会党政権の不人気、英国のEU離脱決定、トランプ勝利の影響などで、大きな波に乗ろうとしている。

 仏共産党が退潮し、元共産党員や支持者がかなりFNへ移った。FNは今、トランプ氏と同様、白人労働者層の異議申し立ての受け皿となっている。

 来年、欧州は重要な選挙の年だ。フランスの前、3月にオランダ総選挙がある。今春、EUウクライナ経済協定批准の国民投票で反対多数を導いた極右、自由党の躍進が見込まれている。

 憲法改正を問う国民投票を、新興大衆政党「五つ星運動」が利用し、政権が倒されたイタリアでも、早ければ春に総選挙が行われる。

 秋は、メルケル首相の4選を懸けたドイツ総選挙。難民反対の右翼政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は手強い。

 この4カ国は、1950年代から欧州統合の主役だった。フランスに反EU政権ができたら、欧州への衝撃は英国の離脱以上となる。

 オバマ米政権から、ハッキングで米大統領選に介入したと非難されたプーチン大統領は、欧州の選挙をどう見守るか。何かするか。

 ロシア、中国、北朝鮮などが、サイバー攻撃で他国の選挙に介入したら、世界の民主主義が危機に陥る。

その意味でも、欧州の選挙とロシアから目が離せない。

(元嘉悦大学教授)