経済効果と安保懸念

 外務省は11月8日、中国人に対する「数次ビザ(査証)」の発給要件を緩和することを決定した。

 現在、沖縄県の尖閣諸島をめぐる日中関係の冷え込み以降、航空路線の運休、減便も影響してか、中国からの旅行者数は減少したままの状態が続いており、今回の緩和をきっかけにして、日中間の人的交流を拡大させ、観光立国推進や地方創生への取り組みを強化し、日中の融和ムードを後押しする狙いがあるとしている。

 果たして外務省の思惑通りに、事は進むのだろうか。

 日本のマスコミではほとんど報道されなかったが、中国では2010年7月1日に国防動員法が制定された。

 同法は、1997年3月に施行された国防法を補完するものだ。中国が有事の際に「全国民が祖国を防衛し侵略に抵抗する」ため、金融機関、陸・海・空の交通輸送手段、港湾施設、報道やインターネット、郵便、建設、水利、民生用核関連施設、医療、食糧、貿易など、あらゆる分野を統制下に置き、これらの物的・人的資源を徴用できるとしている。

 同法には「国防の義務を履行せず、また拒否する者は、罰金または、刑事責任に問われる」という条項に加えて、「国防義務の対象者は、中国国外に住む、中国人も対象となる」という条項もある。

 現在、日本には68万の中国人が住み、中国からの旅行者数が減少しているとはいえ、年間約131万人(平成25年度)の中国人が日本に来ている。

 これらの中国人に国防動員法が発令された場合、その瞬間から日本国内で蜂起する中国人が大量に出てくる可能性もある。

 2008年の北京五輪の際に、長野市で行われた聖火リレーの沿道に集まった中国人の集団蜂起(暴動)を思い起こせば、その恐ろしさが分かるはずだ。

 中国人観光客を当てにした経済効果を期待する前に、中国人観光客が大挙して蜂起した場合の恐ろしさを考えれば、ビザ発給要件の緩和は慎重であるべきではないだろうか。

(濱口和久)