数奇な運命たどった神殿ーエジプトから


地球だより

 エジプトでも特に数奇な運命をたどった神殿がある。それが、アブシンベル神殿だ。新王国時代第19王朝の王、ラムセス2世によって、砂岩でできた岩山を掘り進める形で作られた岩窟神殿で、大神殿は太陽神ラーを祭り、小神殿は愛妃ネフェルタリのために建造されたとされている。

 この神殿を前にして、強烈な印象として残るのは、自己顕示欲が「世界で最も強い」とされるラムセス2世の存在感だ。もう一つは、周りの景色とのつながりが何一つ感じられない孤立した神殿だということだ。

 それもそのはず、1960年代、ナイル川のアスワン・ハイダムの建設計画により、同神殿は水没の危機に瀕(ひん)したが、ユネスコによって救済活動が行われ、1964~68年の間に分割されて、約60㍍上方、ナイル川から210㍍離れた丘に移築されたからだ。

 現在では、アスワン・ハイダムの建設によってできた人造湖、ナセル湖のほとりにたたずんでいる。この大規模な移設工事がきっかけとなり、遺跡や自然を保護する世界遺産が作り出されたのだから偉大な世界的文化貢献でもある。

 この神殿が最近、観光客によって注目を浴びているもう一つの点は、この神殿では10月22日と2月22日の年に2回、太陽の光が神殿内部を通過し、神殿の壁と奥の4体の像のうち3体を照らすようになっていることだ。現在はその1日後にこの現象が見られ、観光の目玉にもなっている。

(S)