未来を信じるエネルギー、アフリカと日本の若者の差
年末、役員を務めるNGOで奨学生選抜の面接をした。難民その他訳あり外国人学生への奨学金だが、中国残留邦人帰国者の孫の大学生に人生目標を尋ねたら、胸を張って答えた。「立身出世です」
子供の時から在留していても、日本人の若者から全く聞かれない“半死語”を堂々と唱える。その中国人パワーに圧倒された。
かなり前の「英語を学ぶ動機」の日中比較調査結果も思い出した。日本では「外国旅行や外国人に道を聞かれた時などに必要」という答えが上位だが、中国では「出世」「金」「親孝行」が大半だった。
そこで新年に各国の若者の将来目標や希望を比較したくなり、一昨年来公表された内外の世論調査を調べて改めて驚いた。数カ国調査で「日本がビリ」がいかに多いことか。
内閣府が日米韓英独仏スウェーデン7カ国の13~29歳に実施した調査で、「将来に希望がある」若者は18・0%(以下数字は全て%)で断トツのビリ。1位は米国63・9、6位はドイツ31・2である。
また「40歳位の時に自分がどうなっていると思うか」を11項目について尋ねているが、日本は「そう思う」積極肯定回答が全部ビリだ。「世界で活躍」3・8(米29・4、独11・8)、「金持ち」7・8(米31・0、独10・7)、「多くの人の役に立っている」7・3(米35・1、独18・5)、「出世している」7・9(米50・5、独18・4)、「幸せ」19・8(米52・5、独29・5)…。
全て米国が1位、ドイツが6位だ。米国はやはり将来へのパワーを内包している。
日本財団調査(9カ国、17~19歳)では国の将来予想を尋ねている。「良くなる」予想は、日本は9・6でビリ。断トツ1位は中国で96・2、以下インド、ベトナム、インドネシア、米国と続く。
日本を含まない外国の若者調査でも、途上国、新興国の方が先進国よりずっと「明るい未来」を信じている。ゲーツ財団調査の結果(15カ国、12~24歳)を見て感動すら覚えた。
「自分の未来をとても楽観している」と答えた比率は、上から順にナイジェリア82、ケニア80、メキシコ69、インドネシア67、ブラジル57、インド54、中国52、米51。下位は仏13、独24だった。
「世界の未来をとても楽観」の1位もナイジェリア62。2位ケニア58、最下位は仏5である。
もちろん数字の裏には、国民性、国民平均年令、政治体制、失業率など様々な要素があろう。途上国、新興国の若者が楽観的といっても、現在の政治に満足しているわけではない。ナイジェリアやブラジルでは、4分の3が「政治家は私たちのことなど考えていない」と思っている。アラブ16カ国の若者を対象にした別の調査でも、55%が、アラブ地域は近年誤った方向へ進んでおり改革が必要だと答えている。
ただし、改革意欲と無縁の楽観もある。例えばケニアなど東アフリカ4カ国での調査では、若者の半数以上が「金儲(もう)けのためなら何でもやる」、3分の1以上が「贈収賄OK」と言っていたりもする。
だが特にナイジェリアには感動した。
石油大国だが過激派テロ、貧富の差、飢餓、汚職、殺人多発と、暗いことが山積の国の若者たちの強力な楽観。現地専門家は言う。「その楽観は社会変革への希望とつながっている。ナイジェリアンドリーム実現を信じているのです」。ドリームの主人公になりたいと思うエネルギーがある。
日本人ももっとエネルギーを示したい。
「少年よ大志を抱け」がアフリカで流行語になるのは望ましい。日本でこれも“半死語”になったら、それこそ国の未来は暗い。
(元嘉悦大学教授)