世界で増す民族浄化
日本も条約に加入すべきだ
世界の自由度調査で定評のある国際NGO「フリーダムハウス」が先月発表した19年版報告によれば、13年連続で自由と民主主義が後退した。
209の国・地域の「政治的権利と自由」度を100点満点で採点、最高の1から最低7まで0・5刻みでランク付けし、更に「自由な国」「部分的に自由な国」「自由でない国」に分類している。その数字の悪化が続く。「自由な国」は08年の46%が44%に減り、「自由でない」は22%から26%に増えた。世界は20世紀末に蓄えた自由と民主主義拡大貯金を食い潰(つぶ)しつつある。
本論に入る前に日本とアジアの数字を見て感じたのは、まず日本の高評価が定着したことだ。96点、ランク1で米英仏独伊より上の12位。アジアでは1位で、台湾(ランク1)、モンゴル(1・5)、韓国(2)と続く。
数字を自慢しようというのではない。アジアと世界の民主主義と自由のため、日本が積極的な役割を務める責任を一層自覚すべきだと思うのだ。
第二。同じ価値観の代表同士の日本と台湾。ぜひ協力を強めたい。
第三。中国のランクは6・5、北朝鮮は7の「自由でない国」だ。6・5が1を吸収し、2の南が7に“従北”したら1と2は幸福になるか。答えは否だろう。
さて本論。今回の報告が「最も懸念すべき」だと強調したのが、民族浄化の増加傾向である。民族浄化や「強引に民族構成を変える動き」は、05年の3件から今や11件に増えた。
ミャンマーでは17年以来、ロヒンギャ人数万人が殺され、70万人が難民になり、元人権闘士、スーチーさんの政権が“ならず者国家”と呼ばれたりしている。内戦のシリア、南スーダンなどは皆「ジェノサイド(集団殺害)初期症状」と定義されている。
そして中露。中国は80万~200万人のウイグル人や他のイスラム教徒を再教育施設に収容、ロシアはウクライナのクリミア地域を占領し、クリミア・タタール人や“強情な”ウクライナ人を追放、迫害し、シリアで政権を強力に支援し介入してきた。
他の官民の機関・組織からも報告や警報が出されている。05年の国連首脳会合で合意された「保護する責任」原則推進のため、19カ国政府や民間の支援でできた「保護責任世界センター」は、現在「国民が危機に陥っている国」(大量の残虐犯罪が起き、緊急対応が必要)としてミャンマー、シリア、北朝鮮、イエメン、エリトリアなど7カ国、「危険切迫」2カ国、「重大な懸念」6カ国を名指ししている。
こうした警鐘にもかかわらず、強権大国の腕力と影響力、国際社会の腰の重さもあって、民族浄化、ジェノサイドの危険が増大する。
集団殺害などの予防・処罰を目的とするジェノサイド条約が国連で採択されてから70年。「条約の効果が上がっていないのが、悲劇的なまでに明白になった」(英誌「エコノミスト」)との声も出る。条約加入国は150近く。中露もシリアも北朝鮮も含まれる。これでは効果も難しい。
だが日本は加入もしていない。民主・自由度アジア1の日本が未加入でビリの北朝鮮が参加なんて、冗談だろう。ジェノサイド防止・処罰は武力行使を要するから憲法抵触の心配ありというのが、不加入の主な理由とされてきた。
集団虐殺も傍観せよという平和憲法って何だろう。
日本は「保護する責任」にも消極的で、「世界センター」支援もしていない。例えば、ウイグル問題で中国に何か言っただろうか。
旗印を掲げて立ち位置を明示することは外交的にも重要だ。少なくともジェノサイド条約加入に努めるべきである。
(元嘉悦大学教授)






