試練の年迎える日本外交
難題の北核・米中関係
G20での首相の手腕に期待
今年の国際情勢はどのように展開していくのだろうか。その中で、日本はどのように外交の舵(かじ)を切っていくべきなのか。国際政治は、一寸先は闇のようなところがあり、特に権威主義的な指導者が多くなってきていること、世界的にポピュリズムの台頭などから、不確実、不安定になってきているので、見通しが難しくなってきている。だが、あえて言えば、今年は昨年よりも一層、流動的かつ激動な年になろう。
上記の前提の上、日本外交にとって最も重要な幾つかの国について占ってみたい。
まず朝鮮半島との関係では、昨年6月12日、シンガポールでの米朝首脳会談は画期的な出来事であった。それ以前の米朝間の激しいやりとりは影を潜め、北朝鮮は核・ミサイルの実験を中止し、核実験場、ミサイル発射場の一部破壊、閉鎖などは歓迎すべきことであった。しかし、肝心の非核化は具体的な進展がなく、その兆しも見られない。このような状況で、2回目の首脳会議が行われても、総花議論に終始するのではないか。必要なのは「完全で検証可能で不可逆的な廃棄(CVID)」に向けての高官級、実務レベルの協議の積み重ねである。懸念するのは、米国のトランプ政権がしびれを切らして、安易な妥協を図ったり、強硬策に立ち戻ったりすることである。
非核化を進めるには、まずは日米韓の結束が不可欠であるのに、韓国の文在寅政権の前のめりの態度が懸念されるし、また、中露が南北融和ムードに乗って、制裁を軟化する姿勢に出ていることも気に掛かる。
日本外交にとって頭痛の種は、日韓関係である。北朝鮮という共通の安保問題を抱えながら、慰安婦、徴用工などの歴史問題、竹島問題が棘(とげ)になっている。韓国政府の対処ぶり、大法院(最高裁)の判決、国民感情などが火に油を注いでいる。日韓関係の改善には妙手はないが、両国の行政府が冷静、沈着になり、協議を通じて、何とか出口を探ることであろう。仲裁、国際裁判といった司法手続きはその次のステップである。これと合わせて、民間、文化などの交流は進めていくべきである。
次に米国との関係だが、昨年1年は、世界中がトランプ大統領に振り回されたと言ってもよい。日本もそうであった。その傾向は今年も続くと思われる。既に米国は2020年の大統領選に事実上入っているし、内政志向、ポピュリズム傾向が強くなっている。また、昨秋の中間選挙の結果、連邦上下両院にねじれ現象が生じて、大統領の議会対策が難しくなり、従って大統領が独断的に行使できる外交や通商でトランプ流の政策に頼らざるを得なくなった。
日本については、両国首脳間の良好な関係を踏まえて、米国との間に大きな波乱は予想されない。安全保障については、東アジアの厳しい情勢を背景に緊密な協力関係が続くであろうし、またそうしなければならない。しかし、貿易の方は必ずしもそうはいかない。1月から始まる2国間交渉では、米国の要求は強硬なものが予想されるし、交渉範囲も物品貿易を越えてくる恐れがある。いまひとつの経済面で日本が努めるべきは米国の保護主義に傾きがちの政策を抑えることだ。多国間交渉の場、特に今年は、日本は20カ国・地域(G20)の議長国を務めるから、その特権を活用して、腕を振るえるチャンスがある。
また、ロシアとの関係では、今年の最大の焦点は、平和条約締結問題である。戦後70有余年、終戦処理で残された最大の外交案件である。安倍・プーチン両首脳の間で合意された1956年の日ソ共同宣言を基礎とする交渉は、どうなるのだろうか。歯舞、色丹2島の取り扱い、返還については、双方の立場は大きく異なっている。共同経済活動は推進すべきだが、領土返還とは違う。2島返還先行の後に続くものがなければならない。
最後に、尖閣諸島国有化の頃から、急激に悪化した日中関係は昨年以降、ようやく改善の兆しを見せ、両国首脳の相互訪問も行われるようになっている。中国は日本にとって、一衣帯水の大国であり、最大の貿易相手国であり、官民双方のレベルで友好関係を進めていかなければならない。
しかしながら、心すべきは中国の外交戦略である。戦略に長(た)ける中国の目標は「中華民族の偉大な復興」であり、南シナ海への強引な進出、「一帯一路」のモットーの下での進出であり、中国流の国際秩序の樹立である。アジア太平洋での存在感を着々と強化している。対中外交には、冷徹な安全保障観が必要であり、「自由で開かれたインド太平洋構想」はその戦略的対応の一つである。
中国に対しては、日本1カ国で立ち向かうことはできない。米中関係を睨(にら)みながら進めることが必要で、米中関係は貿易不均衡問題もあるが、肝心なのは先端技術の分野であり、安全保障であることを銘記すべきである。
今年は昨年にも増して、激動の年になることが予想され、日本外交にとっては懸案山積の年でもある。安倍外交はこれまで培ってきた実績を基に、総仕上げの時期にも差し掛かっている。真の国益、開かれた国益を目指して、積極的に外交を展開していくことを強く期待する。
(えんどう・てつや)