日本に欠ける姉妹都市戦略

エルドリッヂ研究所代表・政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ

ロバート・D・エルドリッヂ

国際化と地方創生に有益
ビジネス・教育面の可能性無限

 筆者はこれまで、45カ国を訪問した。最近では、3週間の家族旅行で6カ国を訪れている。

 これらの国の3分の2以上は、1990年に日本に移住してから訪れたものだ。それ以前は、国際関係を専攻する貧しい学生で、小銭をコツコツと貯(た)めては旅行していた。卒業後は、就職で得た収入で、できるだけ多くの場所に旅行することにしている。これについては、2017年5月23日付本欄の「若者よ、世界を旅しよう」を参照してほしい。

 日本から世界を旅するのが特に好きな理由は、日本との関係からその国を見たいからだ。言い換えれば、その国が日本とどのようなつながりがあり、その国民が日本をどのように見ているか、その国に日本がどのような影響を与えているのかを考えたいからだ。

 旅そのものが好きで旅行している面もあるが、日本外交と国際関係の専門家として、旅行中は上記の要素に強く関心を持つようにしている。また、訪問先と母国米国との関係にも関心があるが、やはり日本がどれだけ国際的に頑張っているかは、日本の政治および外交史を研究する者としては最大の関心事になる。筆者は日本が国際関係を広げ、グローバルな影響力を拡大する機会を逃し続けていることを懸念している。

 最近の中東と欧州旅行で、筆者は重要な都市から小規模な村まで、あらゆる種類の地域を訪問した。スコットランド最大の都市グラスゴーには、ドナルド・トランプ米大統領が訪問する前日に訪れた。そこで、グラスゴーが日本と姉妹都市提携をしていないことに気付いた。一方で、グラスゴーは中国の大連など、複数の国の都市と姉妹都市提携している。さらに調べると、スコットランドの首都エディンバラも日本のどの都市とも姉妹提携していない。

 世界の他の主要都市または国で、日本と姉妹提携を結んでいないのは他にどこがあるのだろうかと考えるようになった。言い換えれば、日本はどこと姉妹提携などの友好関係を結んでいるのだろうかという疑問だ。日本は現在、1732の姉妹都市提携を結んでいる。日本の自治体数は1741であり、ほぼどの自治体も姉妹提携しているように思える。事実は違う。全ての県や市町村が姉妹都市提携しているのではない。複数都市と提携しているところもあれば、何もない自治体もある。

 最初に姉妹都市提携を結んだのは1955年、長崎市が米ミネソタ州セントポール市と締結し、その後は姉妹都市が増加した。ただピークは過ぎ、増加率は減少した。

 姉妹提携はビジネス面、教育面などさまざまな分野で大きな可能性があるだけに、残念なことだ。可能性は無限にある。日本の資源は中国などと比べると限られているため、相互利益の関係を最大限に生かす必要がある。姉妹提携はそのための大切な手段だ。

 自治体国際化協会(CLAIR)と呼ばれる姉妹都市提携を支援する組織がある。同協会は今から30年前の88年に設立された。同協会の岡本保理事長は「グローバル化が進む中で、地方自治体による外国人旅行者の誘致、地方産品の海外進出・海外展開の支援など、経済活動の支援にも取り組んでいる」と話す。

 こうした呼び掛け、「国際化」のための多くの政策があるにもかかわらず、日本は姉妹都市提携の戦略を欠き、その重要性に気付いていない。別の言い方をすれば、日本は政策があっても戦略がない。自治省(当時)が87年3月に策定した「地方公共団体における国際交流の在り方に関する指針」は今でも使用されているが、姉妹都市提携について一言も触れていない。

 姉妹都市の重要度が増しているのには、幾つかの理由がある。貿易の拡大とインバウンド(訪日外国人客)の促進は代表例だ。既存の製品を知的イノベーションや業界の協力を通じて改善することも可能だ。世界には200の国と数十万の自治体があり、教育、文化、人的交流という面でも、この急速に変わっていく世界で姉妹都市関係は、これまで以上に有効だ。

 姉妹都市提携はさまざまなきっかけで始まる。地理的理由、名前、人口、気候など、さまざまな要因があり得る。共通する歴史と重要人物を持つとか、貿易や教育などの面での関係がきっかけとなる場合もある。CLAIRはウェブサイトで情報提供し、地方自治体の姉妹都市提携の手助けをしている。筆者も国内で幾つかの自治体の国際化を支援しており、必要であれば喜んで訪問して助言したい。

 姉妹都市提携は、意外と簡単だ。無論、相手が関心を持ってくれることが前提となる。筆者はこれまで、複数の都市と姉妹提携するよう提言してきた。何らかの理由で関係が停止しても、全体としての国際化と経済発展を妨げないようにするためだ。

 日本は直ちに、できるだけ多くの都市と姉妹提携を交わすことを目指し、戦略を明確化すべきだ。9月20日の与党・自民党総裁選の候補の一人が主張するように、地方創生を真に大切にするのであれば、日本政府は、国際化と国際貢献、さらには、地方発展の重要な要素として姉妹都市提携を前面に押し出すべきだ。