信頼揺らぐ広辞苑、誤り目立つ第7版
今年1月、10年ぶりに改訂された岩波書店の国語辞典「広辞苑」第7版では、台湾が中国の一部と記載されただけでなく、他にも誤りが目立っている。そのうち4箇所について広辞苑編集部に指摘し正したが、いまのところ訂正に応じていない。相次ぐミスで広辞苑の信頼が揺らいでいる。(編集委員・片上晴彦)
「台湾省」「従軍慰安婦」など訂正せず
「特定のキャンペーンに利用」
第7版には「しまなみ海道」「ブラック企業」など約1万項目を追加し約25万項目を収録。しかし広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ自動車道「しまなみ海道」について、海道の経由地を山口県周防大島町の屋代島(通称・周防大島)と、愛媛県今治市の大島を取り違えて説明していた。また寺の役職などを言う「坊守」や「LGBT」についても間違いが指摘され、広辞苑編集部は「しまなみ海道」「LGBT」について誤りを認めた。
一方「従軍」の項目の中には「従軍慰安婦」の記載があり、「日本軍管理下に戦地の慰安所で将兵の性の対象とされた女性。(中略)徴募や服務にあたって強制があった。」と説明している。
しかし2014年、朝日新聞は慰安婦に関する“世紀の誤報”を認め、今や、慰安婦の強制連行や性奴隷説を言い立てるのは一部の左派勢力だけだ。近隣の韓国や台湾でさえ「従軍慰安婦」の語は用いていない。政府も「慰安婦」はあっても「従軍慰安婦」はないという立場であり、従軍慰安婦の記載は誤りだ。
小紙の指摘に対し、岩波書店広辞苑編集部は「『従軍慰安婦』という語は、歴史学用語として定着していて使われているとの判断から、項目を掲載」と返答してきた。
拓殖大学客員教授の藤岡信勝氏は「使う人が多ければ、辞書に採録する根拠にはなる。しかし従軍慰安婦は1970年代の、ある作家の造語であり、また朝日新聞は吉田清治証言が虚偽であることを認め記事を撤回し謝罪している。間違った用法でも、それを辞書に取り上げるのは、特定のキャンペーンの手段に辞書を利用しているということだ。左翼がアジア・太平洋戦争という造語を世間に広め、恥の上塗りになったのと同じことだ」と話している。
また「中華人民共和国」の項目では、その版図の地図を掲載しているが、その中で台湾を「㉖台湾省」と記している。これは中華人民共和国政府の主張であって、明らかに事実に反している。「台湾省」の記述について同編集部は「『中華人民共和国』の項目に付した地図であり、同国が示している行政区分を記載したもの」と返答。
先の藤岡氏は「中華人民共和国がそう言っているからといって、その言い分をそのまま載せるのは辞書としてありえない」という。
一方、1972年、田中角栄・周恩来の日中首脳によって出された日中国交正常化をうたった「日中共同声明」の項目では、「戦争状態終結と日中の国交回復を表明したほか、日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と認め、台湾がこれに帰属することを実質的に認め」となっている。
しかし日中共同声明のどこにも、台湾が中国に帰属するとは記されていない。実際、共同声明第3項で「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明」したが、これに対して日本政府は「この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重」するとして「承認」する立場をとっていない。
小紙は「日中の国交回復」を「日中の国交正常化」に、「実質に認め」を「理解」の訂正を促したが、同編集部は同ホームページで「誤りではない」と返答してきた。
広辞苑7版の台湾に関する記述について、民間団体「日本李登輝友の会」(柚原正敬事務局長)も3箇所の訂正を要望しており、その一つが同様に「日中共同声明」の「実質的に認め」の部分。しかし「岩波側からは当方からの2度の訂正要求に対して総務部長名にて返答をいただいています。ただ、訂正を検討するつもりはないという内容の返答でした。今後、どのような対応が可能なのか思案中です」(柚原正敬事務局長)という。
他に「日本国憲法」の項目の「一九四六年一一月三日公布、翌四七年五月三日から実施」の「実施」を「施行」(法令の効力を現実に発生させること)が正しいと指摘したが、同編集部からは「『実施』でも誤りではない」と返答があった。







