児童虐待 札幌・興正学園の取り組み

地域のつながり再構築を 親を含めた家庭ぐるみ支援

 全国的に児童への虐待が増えている。政府はそうした児童虐待増加に歯止めをかけたいと、今年10月に児童虐待防止法を改正した。そうした中で、札幌市内にある社会福祉法人常徳会の児童養護施設・興正学園では、地域に根ざした児童養護のための体制を構築し、自立支援のために取り組んでいる。(札幌支局・湯朝肇、写真も)

子育ての難しい時代だからこそ

児童虐待 札幌・興正学園の取り組み

地域交流スペースには子供が関心をもつ書物がいっぱい並ぶ

 「児童虐待といっても殴る蹴るの暴力だけが虐待とは限りません。大声や脅しといった言葉による心理的な虐待もあります。夫婦間の暴力を伴った諍(いさか)いで子供たちが恐怖を覚えるといったことも虐待に入ります」こう語るのは、児童養護施設・「太陽の子の家」興正学園副施設長の鏑木(かぶらぎ)康夫氏。

 同学園は札幌市北区の閑静な住宅地の一角にある。現在、同学園には乳幼児(14人)、小学生(24人)、中学生(11人)、高校生(17人)の合計66人の子供たちが入所している。一方、子供たちをケア・サポートする体制として施設長以下、保育士、看護士、臨床心理士ら総勢約42人が常時配置され、さらに地域のボランティア団体が参加して子供たちの自立を手助けしている。

 「こちらに入所してくる子供たちの8割は虐待によるものです。ここでは、単に子供の養護というだけでなく、子供の親を含めた家庭支援を心がけて実践しています」と鏑木氏は語る。今年10月に同学園は新しく建て替えられた。子供たちがより安心し、自立できるような仕組みや空間が準備されている。その一つが地域交流スペース。そこには1万冊に及ぶ児童書がテーマごとに並び、地域にも開放された空間になっている。また、園内には大勢の子供たちが入ることのできる浴室や訪れた家族が団欒(だんらん)のひとときをもつことのできるユニットリビングなども設けられている。

 同学園が創立されたのは昭和20年7月のこと。当時は終戦1カ月前、飢えと貧困と著しい社会的混乱の中で戦争孤児になった子供たちに対して真宗興正派晟徳(せいとく)寺住職・秦元勝氏の捨て身の救済実践活動の中で建園された。

児童虐待 札幌・興正学園の取り組み

地域交流スペースに立つ鏑木康夫氏

 「当時は敗戦間近で戦争孤児が増加した時代。自分が生きるのが精いっぱいで孤児や他人のことなど考えられない時に、『自信教人信(自ら学び、体験し、実践することによってのみ他を助け、守り、共に歩むことができる)』という仏教の精神を運営方針に据えてスタート、今もその精神を持って取り組んでいます」と鏑木氏は語るが、「居場所のない子供たち」が現在もなお増え続けているのは、ある意味で71年前も今も変わっていないといえる。

 北海道保健福祉部こども未来推進局の報告によれば、児童相談所への虐待に関する相談対応件数は平成23年度(1515件)から平成27年度は(3900件)までの5年間で2・5倍に増加している。一方、全国では23年度(55900件)から27年度(103000件)まで1・7倍の増加であることから、北海道の伸び率が目立つ。

 もっとも、この要因について鏑木氏は、「虐待の定義を数年前から身体的な暴力だけでなく、育児放棄、言葉による心理的虐待などにも広げたことや地域の人々が積極的に児童相談所に連絡するようになったことも背景にある」としながらも、「子育てが大変な時代になっていることは間違いない。世間では子供を産んだら育てるのが当たり前というが、そんなに簡単なことではないことをしっかり認識することが大切。子育ての価値が見いだせないことで子供軽視になる傾向がある」と指摘する。

 増え続ける児童虐待に歯止めをかける方策として、同氏は次の点を挙げる。①(虐待を受ける)子供の養育・支援だけでなく家族支援が必要②そういう家族を支えていくための社会的なネットワークづくりが急務③妊産婦さんが出産するに当ってどのような状況に置かれているかを把握することも重要――というのである。

 確かに家族で子育てをするには難しい時代に入っている。核家族化の進展や夫婦の共働き、加えて地域社会の中での孤立化の促進などが子育ての閉塞化を招いているといっても過言ではない。逆に言えば、こうした地域社会の絆が薄くなっている今こそ、社会的養護の中にいる子供たちを地域で支援することで、新しい地域のつながりを再構築し活性化する道もあると考えられる。