豊洲市場の盛り土問題、地下空間でも対策十分
 豊洲市場(東京・江東区)の主要建物下で土壌汚染対策の盛り土が行われず、地下空間が設けられていた問題。小池百合子・東京都知事は、地下水モニタリング調査結果の公表と、専門家会議や市場問題プロジェクトチーム(PT)が提出する報告書を受け、来夏に移転の可否を判断する。しかし、土木や建築の専門家からは、地下空間の方が安全だとする一方、混乱によって生じた風評被害の方が深刻との指摘が相次いでいる。
(社会部・宗村興一)
風評でブランド力低下が深刻
都議会の「豊洲市場移転問題特別委員会」が今月2日、初の質疑を行った。都側は「土壌汚染対策は食の安心のため法律を上回る高いレベルで実施している」と説明。構造面でも、有識者によるPTが建物の耐震性を確認したとし、「主要建物の構造部分では、追加工事は発生しない」との見解を示した。さらに、PTが建物の構造や設備などハード面の調査を年内に終え、来年1月に小池知事に中間報告を行うことも明らかにした。
地下空間でも安全性に問題はないとの指摘は当初からあった。9月29日に行われたPTの初会合。委員の一人で、建築研究所代表の佐藤尚巳氏が地下空間の設置を支持。「地下空間には水道やガス、電気などの配管が通っている。設備は改修のため、約20年で更新時期が来るが、広い地下空間があることで50~70年先でも更新して使える」と説明した。さらに、盛り土を行って配管用の地下ピットを作ると、200~300の小部屋が並び、設備の保守点検は不可能に近くなり、コスト面でも地下空間の方が安くなると述べた。
時松孝次・東工大教授も「盛り土を埋め立て地の軟弱な地盤に行うと問題が生じる。盛り土を避けた方がいいというのは技術者としては選択肢の一つと考えるのではないか」と述べた。
建物の構造上の安全性については、10月25日の第2回の同会議で、基本設計を担当した「日建設計」の幹部らが耐震性などのデータを示した上で「基礎ピット(地下空間)は頑丈で地震時にほとんど変形しない」と説明。これを受け、委員の一人で、日本建築構造技術者協会会長の森高英夫氏は「耐震安全性は確保されていると判断した」と語った。
移設反対派は「豊洲市場は狭くて作業しづらい」「環状2号の建設前提で物事を決め過ぎではないか」などと批判する。一部マスコミも汚染対策に対する不安をあおる報道を繰り広げ、豊洲への移転後の風評被害の懸念が強まった。
一方、小池知事は、方針変更が実質的に決まったのは2011年8月の新市場整備部部課長級会議だったとの都の報告を受け、中央卸売市場の歴代市場長ら4人を含む幹部、OB計18人を減給とする懲戒処分を発表した。豊洲市場問題の焦点は、安全性よりも設計変更の手続き上の問題に移り、縦割り行政の弊害として都庁の体質批判が続く。
しかし、盛り土から地下空間へ設計を変更することを、新市場整備部長らが市場長に報告しなかったということはあり得るのか。また、小池知事は11月1日の会見で、当時の都議会は、市場移転に慎重な民主党が第1党だったことが影響したとの見方を示した。
これに関して、元都庁職員で教育評論家の森口朗氏は「新市場整備部長らが市場長に報告しないなどというのは常識的に考えてあり得ない」と断言。その上で、「政治家は結果を出すことが仕事のため、移設反対の民主党が設計変更の情報を手にすれば、公約通りに盛り土をしなかったことが攻撃材料にされ、豊洲への移転が頓挫するかもしれない。一般的に役人は知事の仕事に協力するため、移設推進の知事、都議会与党の足を引っ張ることを恐れ、設計変更を表に出すことを避けようとしたのでは」と推測する。
また、豊洲市場は風評被害によってブランド価値は落ち、築地のままなら豊洲に掛けた金は無駄になると指摘。「小池知事が都民ファーストの姿勢を貫くなら、次の都議選に合わせて豊洲と築地のどちらにするかを住民投票で決めるのもありだ」と語った。






