リベラルメディアの敗北
今回の米大統領選が衝撃をもたらしたのは、大手メディアの事前予想を完全に覆したからだ。共和党ドナルド・トランプ氏の勝利を予想した大手メディアは皆無で、ニューヨーク・タイムズ紙に至っては、民主党ヒラリー・クリントン前国務長官が勝つ確率を84%としていた。
予想はなぜ外れたのか。その最大の要因は、周囲の批判を恐れてメディアの世論調査に回答しない「隠れトランプ支持者」の存在を見誤ったことにある。
リベラルな大手メディアは基本的に民主党寄りだが、今回の大統領選報道の偏向ぶりは明らかに度を越していた。政治専門紙ポリティコの元最高経営責任者(CEO)ジム・バンデハイ氏は、大手メディア記者の露骨な親クリントン・反トランプ姿勢を「恐ろしい」とまで語っていた。
大手メディアが連日、激しいトランプ氏批判を繰り広げた結果、トランプ氏支持を公言しにくい空気が生まれた。だが、メディアの偏向報道に左右されず、密(ひそ)かにトランプ氏を支持していた有権者が多くいたのだ。まさしく「サイレント・マジョリティー(物言わぬ多数派)」と言っていい。
トランプ氏の勝利を完璧に近い精度で当てた調査会社もある。アトランタに拠点を置く「トラファルガー・グループ」だ。隠れトランプ支持者の存在に気付いた同社は、有権者が正直に答えやすい工夫をした世論調査を実施した。
同社は投票日の前日、ペンシルベニア、ミシガン両州でトランプ氏の優勢を伝える世論調査結果を発表。民主党の牙城である両州でトランプ氏にチャンスはないとの見方が圧倒的だったが、同社の調査通りの結果となった。
大手メディアも同社のように有権者の本音を真摯(しんし)に探ることもできたはずだが、米社会の底流で起きていた大きな変化を直視することを怠った。そもそも、トランプ氏を大統領に不適格と決め付けるリベラルメディアは、一般庶民の感覚と乖離(かいり)していた。
例えば、不法移民問題。「国境なき国家は国家ではない」。長年、米国の保守主義運動の先頭に立ってきた著名な活動家フィリス・シュラフリー女史は、今年9月に92歳で他界する直前に出版した著書でこのように断じ、不法移民流入を阻止すると宣言したトランプ氏を絶賛した。
一般庶民にとって不法移民はあくまで不法。だが、中南米系有権者を遠ざけることを恐れる既成政治家たちは、法治国家として当たり前の事実に目を背け、国境を守る責任を果たしてこなかった。メディアはトランプ氏の暴言を容赦なく批判したが、今まで言えなかった本音を代弁してくれたと受け止めた草の根有権者が多くいたのだ。
有力保守派団体「家庭調査協議会」のトニー・パーキンス会長は、こう指摘する。
「有権者が信じていることにリベラルメディアが耳を傾けていれば、選挙結果は驚くべきものではなかっただろう。今回の選挙結果に確かなメッセージがあるとすれば、それはメディアや左翼勢力が米国民を代弁しているわけではないということだ」
(ワシントン・早川俊行)





