インフラ再建、貿易「2国間」に重点
米大統領選で共和党のドナルド・トランプ氏勝利が確定した後、ニューヨーク株式市場は9日、10日と大幅に続伸し、約3カ月ぶりに最高値を更新した。公共投資の拡大、法人税の大幅減税などを公約してきたトランプ氏の経済政策への期待感から、買い注文が広がったためだ。さらに共和党が連邦議会の上下両院の主導権を維持したことから、国内経済政策の実現可能性が高まるとの希望が市場に与えた影響も大きい。
半面、トランプ氏勝利のニュースが伝わるや、世界の金融市場は「トランプ・ショック」に見舞われた。同氏の環太平洋連携協定(TPP)反対姿勢に象徴される保護主義への警戒感が広がり、アジア、欧州の市場が軒並み下落した。
トランプ氏は、高速道路、橋梁(きょうりょう)などのインフラ再建に1兆ドル規模の資金を投入することを公約している。その財源はかなりの部分は民間企業から来る見込みだ。インフラ投資はトランプ氏とクリントン氏の経済政策に関する見解が一致した数少ない分野。米国ではインフラ劣化が指摘され始めて久しい。全米の橋梁は3割以上が設計寿命を超え、主要道路の3割は状態が良好でない。にもかかわらず、連邦政府によるインフラへの公共投資は2002年から14年の期間に2割減少した。公共投資は今、超党派的支持を得やすい時宜を得た政策だ。
不動産王と呼ばれてきたトランプ氏は「インフラ投資のことを誰よりも理解している」と豪語し、その重要性を強調してきた。トランプ氏を熱烈に支持したラストベルトの白人ブルーカラーを救済するには、雇用拡大がカギになる。トランプ氏にとって、インフラ再建が雇用拡大の解決策であることは間違いない。トランプ氏は9日の選挙勝利宣言で、「道路や病院といったインフラを再建してゆく。何よりもまず多くの人々をインフラ再建の仕事に就けていきたい。才能ある人々の力を生かし、経済成長を倍にして最強の経済をつくる」と明言している。
このほか、国内経済政策では、オバマ大統領がレガシー(遺産)として残そうとした医療保険制度改革(オバマケア)、金融規制、環境規制など現政権の「大きな政府」政策の多くについて、トランプ氏は見直しする意向を確認した。そのかなりの部分が覆されることになろう。
オバマ大統領は選挙後の「レームダック(死に体)議会」にTPP実施法案を提出し、1月20日までの任期中に批准したい考えだ。しかし議会共和党トップのマコネル共和党上院院内総務、ライアン下院議長ともに年内審議はないと表明している。TPP批准は当面ないというメッセージは10日、議会指導部から全米労組幹部に伝達された。トランプ氏はTPP離脱を一貫して主張してきた。だが、自由貿易を完全に否定しているわけでもない。トランプ氏は、「必要なのは2国間貿易協定だ。米国を拘束する巨大な国際協定を結ぶ必要はない」と強調している。トランプ政権では多国間から2国間の通商交渉に重点が移りそうだ。
(ワシントン・久保田秀明)