変容する米国に白人反発
わいせつ発言や所得税の不払い疑惑――。普通の候補者なら致命傷となる数々の暴言や疑惑にもかかわらず、ドナルド・トランプ氏は米大統領選で勝利した。有権者が今までと違う基準でトランプ氏に一票を投じた結果といえる。
出口調査によると、米連邦政府に「怒り」を感じている人のうち、トランプ氏に投票したのは77%に上った。同じく怒りを感じている人でヒラリー・クリントン前国務長官に投票したのが18%だったのに比べ、圧倒的に高い数字だ。
米ジョージ・メイソン大学のビル・シュナイダー教授はロイター通信への寄稿で、「白人労働者はグローバル化や失業、移民、ポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)といった米国で起きている変化に脅威を感じている」と指摘。そうした感情が「怒りや不満、反逆」へと変わり、トランプ氏への投票につながったと説明する。
「変容する米国に対する白人の攻撃だった」。CNNテレビでコメンテーターを務めるバン・ジョーンズ氏は、トランプ氏の勝利をそう表現する。FOXニュースの報道番組でキャスターを務めるビル・オライリー氏も「国民の反乱がトランプ氏を勝利に導いた」と強調した。
こうした「反乱」に加わったのは、トランプ氏に好意的な感情を持つ人たちだけではなかった。出口調査によると「トランプ氏が大統領にふさわしい気質を持っている」と答えた人は有権者のわずか35%だった。またトランプ氏の主張を「好ましくない」と回答した人は60%に上ったが、このうち15%が同氏に投票していた。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「政治家としての能力や激しい気性というリスクがあったとしても、多くの人がトランプ氏を支持するほど不満を募らせていた」と指摘する。有権者は否定的な見方をしながらも「トランプ大統領」という「劇薬」を選んだのだ。
これに対し、クリントン氏は「支持者の熱意という点でトランプ氏に劣っていた」(ワシントン・ポスト紙)。トランプ氏が2012年大統領選で共和党候補だったミット・ロムニー氏の獲得した得票総数と大きく差がなかったのに比べ、クリントン氏はオバマ大統領が獲得した票より約500万票も減らしていたのだ。
「怒りを導いてムーブメント(運動)としてまとめ上げ」(CNNテレビ)、自身への熱狂的な支持に変えてきたトランプ氏とは対照的だったといえる。
しかし、トランプ氏が大統領になっても不満を持つ人たちの生活環境が大きく変わり、社会が良くなる保証はない。怒れる白人労働者たちの求めるような改革をトランプ氏が成し遂げられなかったとき、その怒りがどこに向かうのかを危惧する声もある。
(ワシントン・岩城喜之)





