米社会の「保守回帰」に期待感
米連邦最高裁判所は昨年、同性婚を全米で認める判決を下すなど、米国内の社会問題に絶大な影響力を持つ。連邦判事は終身制で、いったん就任すれば、その判事の価値観は20~30年にわたって影響を及ぼす。最高裁判事の指名権が大統領の最も重要な権限の一つと言われる所以(ゆえん)だ。
大統領選の出口調査によると、有権者の7割が「最高裁人事は投票先を決める上で重要な要素」と回答。中でも「最も重要な要素」と答えた有権者の56%が共和党ドナルド・トランプ氏に投票した。トランプ支持者の間で、民主党ヒラリー・クリントン前国務長官に最高裁をリベラル化させてはならないとの意識が強かったことがうかがえる。
トランプ氏は大統領就任後、今年2月に死去した保守派の最高裁判事アントニン・スカリア氏の後任を指名することになる。トランプ氏は選挙戦中に全員保守派から成る21人の最高裁判事候補リストを発表しており、この中から選ぶとみられる。
上院がこれを承認すれば、最高裁は再び保守派5人、リベラル派4人の構図に戻る。最高裁には78歳以上の判事が3人おり、トランプ氏の任期中に引退・死去した場合、保守傾斜がさらに進む可能性がある。
オバマ大統領は議会の支持を得るのが難しいリベラルな政策課題を推し進めるために、立法措置を必要としない大統領令などに頼ってきた。これらはオバマ氏の一方的な措置であるため、トランプ氏が一方的に撤回することも可能だ。
有力シンクタンク、ヘリテージ財団のライアン・アンダーソン上級研究員は「オバマ政権は攻撃的で不必要な文化戦争を遂行した。これは主に行政命令を通して行われたため、トランプ政権はそのダメージをすぐに取り消せる」と指摘。保守派はトランプ氏に対し、オバマ政権が押し付けたリベラルな政策を一掃することを強く求めている。
例えば、オバマ政権は今年5月、全米の公立学校に対し、体と心の性が一致しない「トランスジェンダー」の生徒に、本人が望む性別のトイレや更衣室などを使用させることを指示し、保守派の猛反発を買った。1972年成立の教育改正法が禁じた性別に基づく差別には、「ジェンダー・アイデンティティー(性自認)」も含まれると、オバマ政権が一方的に解釈したのだ。
信教の自由をめぐっては、オバマ政権が企業や団体に職員の避妊費用を負担することを義務付けたことに対し、避妊に否定的な宗教系の学校や慈善団体などが反発。社会的弱者に奉仕活動を行うカトリックの修道女たちが、法廷闘争を繰り広げる異常な状態になっていた。
こうしたオバマ政権の政策を、トランプ政権が速やかに撤回・修正することが期待されている。
また、同性愛者ら性的少数者(LGBT)の国際的な権利向上を優先課題に位置付け、他国にその受け入れを迫るオバマ政権の「LGBT外交」は、アフリカ諸国などから強い反発を買ってきた。この問題に対するトランプ氏の考えは明らかではないが、「世俗主義のアジェンダを他人に押し付けることに関心はない」(アメリカン・スペクテーター誌のジョージ・ニューマイアー氏)とされ、大幅な軌道修正が図られるとみられる。
(ワシントン・早川俊行)