無関心社会に翻弄される子供たち
「こころの教育」をテーマに北海道人格教育協がシンポ
過剰ともいえる情報に加え、多様な価値観が蔓延する現代社会にあって、自らの価値観や将来の方向性を見いだせず不安と焦燥の中で生きる子供たち。一方、子供の成長を見守り育むはずの家族や地域の絆や思いやりは薄くなるばかり。子供を取り巻く環境が刻々と変化する中、もう一度、教育の在り方を模索し、家庭・学校教育再建を目指す北海道人格教育協議会がこのほど、札幌でシンポジウムを開催し、「こころの教育」をテーマに話し合った。(札幌支局・湯朝 肇、写真も)
やる気、勇気を育むコーチング
「頭ごなしに『何故』『どうしてそうなの』と理詰めで子供に追及するように聞くのは、正しいコーチングとは言えません」-こう語るのは、同協議会会長で北翔大学教授の山谷敬三郎氏。11月5日に札幌市内で開かれた同協議会主催のシンポジウムで、教育心理学が専門の山谷教授は、「子供の心を育むコーチング」をテーマに基調講演を行った。その中で同教授は、コーチングの最も大切なポイントとして、「きく」ことの重要性を指摘した。
同教授は、ニートや引きこもりの子供を持つ母親の研修会に講師として参加した時、次のような体験を持ったという。「研修会で私が話し始めようとしたとき、一人の母親が切羽詰まった口調で、『私は息子から〈うるせえクソ婆、消えろ〉と言われるんです。さらに〈死ね〉と言われた時もあります。自分が産んだ子供にこう言われると本当に悲しくなります』と話をしていました。どうしてそのような状態になってしまったのでしょうか。また、どう解決すべきなのでしょうか」と問題を提起したという。
さらに同教授は、北翔大学の教え子たちに一つ質問した「親に対して『〈うるせえクソ婆、消えろ〉と言ったことのある人は手を挙げてみて』と聞いたところ、かなりの手が挙がりました。『どうしてそんな言葉を発したのか』と聞いたところ、『あまりにもしつこく言うもんだからつい』と答えていました。こういう親子の会話にはコーチングは存在しませんね」という。
コーチングの本来の意味は、人間が元来もっている可能性を最大限発揮できるように援助すること。それは、決して指示命令型の指導ではなく、問答技法を用いて共同で解決し、目標を実現すること。そのためには、まず「きく」ことが何よりも重要だというのである。「聞いてもらっているという安心感を醸成すること。受け入れられている。それが最終的に自信につながっていく。ただ、『きく』にしても聞く、訊く、聴くの3段階がある」と同教授は説明する。
すなわち、単に相手の話を受けるだけの「聞く」。尋ねるつもりで「訊く」。相手の感情や考え、意欲など心の中を感じよるように「聴く」の3段階。こうした傾聴のスキルを高めることが家族の絆や地域社会のコミュニケーションを構築するのに必要なのだという。
この日は、山谷教授の基調講演の後、札幌科学技術専門学校高等課程教諭の木津宣之氏、札幌市PTA協議会副会長の森清次氏、児童養護施設・興正学園副施設長の鏑木康夫氏らによるパネルディスカッションが行われた。
このうち、鏑木氏は、子供を取り巻く社会的な問題を挙げ、「平成27年度中に児童相談所が対応した児童虐待相談件数は10万3000件を超え、過去最多となっています」と児童虐待の増加を指摘し、さらに「児童が養護施設を出て家庭に戻っても、家庭が変わっていなければまた虐待の恐怖を味わうことになります。児童だけでなく、子供を養護施設に預けた家庭の支援も必要。核家族社会の中で子供を一人前に育てるのは、当たり前のことではなく、本当に大変なこと。社会がそうした認識を持って支え合っていくことが重要だ」と訴えた。
同シンポジウムには、道内の小中学校の高校の現職教諭や教育関係者など50人余りが参加。パネルディスカッションの後も会場から活発な意見や感想が出た。一昨年10月に発足した同協議会は毎年定期的にセミナーやフォーラムを開催している。







