北海道師範塾「教師の道」で教師魂を磨く
向上する教師目指し定期講座、民間企業トップ招き講話
教師の質の低下がいわれて久しい。学校現場での人間関係や肉体的な過労などによってストレスを抱え鬱(うつ)病で休職する教師も増加しているという。そうした中で「教師魂を磨く」ことを目標とし、教師を目指す若者を支援・養成する北海道師範塾「教師の道」(塾頭、吉田洋一・元北海道教育長)は毎年夏、冬の2回にわたって定期講座を開催。「教師力」「人間力」のある教師養成を図っている。(札幌支局・湯朝 肇)
「自覚と矜持持ち研鑽の継続が大事」
「人の話を聞くことは学ぶことの第一歩。また、これまで実践してきた内容を発表するのは自分を見つめ高める上でとても重要であり、意義あること」――。こう語るのは北海道師範塾「教師の道」塾頭の吉田洋一氏。8月8、9日の両日、札幌市内で開かれた夏季講座では、民間企業の経営者による講話や現役教師による現場での実践内容が報告された。開講式で吉田塾頭は「先輩や後輩から、あるいは民間企業で働く方々から教えられることは沢山(たくさん)あると思います。共に学び合って行きましょう」と全道から集まった約100人の参加者に挨拶(あいさつ)した。
講座の初日、最初の講話には旭イノベックスの星野恭亮社長が招かれ、「ものづくりは人づくり」と題して講演を行った。同社は北海道を拠点に全国展開する機械製造を主とする企業。講演の中で星野社長は、「創業したのは私の父だが、会社を受け継いだ当時、社員は60名ほどで大手企業の下請けだった。大手から指示されたことは行う企業だったが、それでは発展しないと思った。そこで私は活力があり成長する独立した会社を目指した。そのために社員一人ひとりが価値観を共有し、技術革新していく企業風土をつくっていった」と同社の沿革を説明。
現在、同社は社員が260人、売上高も100億円を超える。中でも2014年には開発した水門「バランス式無動力ゲート」は内閣総理大臣賞および「ものづくり日本大賞」を受賞した。会場からの「技術革新を促す秘訣」についての質問に同社長は、「経営者としては、社員の能力をいかに引き出すかが問われていると思う。そのためには信頼関係の構築は不可欠で、互いに共感することが大事。製品開発や経営の面などあらゆる面で会話すること。そこから新しいものが生まれてくる」と話す。
同塾では各講座のたびに経営者や自治体の首長などを招いているが、今回、星野社長を講師に招いた経緯について同塾の吉井亮参与は、「人づくりについては、企業も教育も同じところを目指している。製造業が少ない北海道にあって、あえて北海道に根を下ろし発展している地場企業の経営者の話を聞くのは価値のあること」と説明する。
2日目は、同塾が開設した教師養成講座を受けて巣立っていった若手教師による実践報告を行った。この中で国語科目を担当している北広島市立大曲中学校の木村悠香教諭は、「国語科授業の工夫」と題して報告。ICT(インフォメーションアンドコミュニケーションテクノロジー)などを活用したアクティブ・ラーニングを取り入れた授業を紹介した。「授業で単元ごとに成果物を提出させることで生徒に少しずつ関心とやる気が見えてきた。はっきりとした成果が出るのはこれからだが、さらに改善して進めたい」と木村教諭は語る。もっとも、教師になって3年目。中学3年生の担任を受け持ちながら、授業を週22時間、さらに部活の部長を務めるなど、本人にとって多忙を極め追われるような日々の実情を吐露する。
平成22年9月に発足した北海道師範塾「教師の道」は、北海道内の小中学校、高校の現役教師および大学教授などで構成され、将来教師を目指す学生が塾生として参加している。教師養成教座には現役教師らがボランティアで塾生を全面的にサポートする。「初めから力のある教師はいない。子供たちと同様に教師もまた学びながら成長していく存在。教師たる自覚と矜持(きょうじ)をもち、研鑚(けんさん)を続けていくことが大事」と訴える吉田塾頭。すでに同塾から50名以上の教師が生まれている。北海道師範塾「教師の道」の考え方や取り組みは、今後さらに北海道の教育界に影響を与えていくことになる。







