左傾化急加速する民主党
トランプVSヒラリー 米大統領選まで3カ月(2)
米大統領選で「変質」が見られるのは、実業家ドナルド・トランプ氏の下で揺れる共和党だけではない。ヒラリー・クリントン前国務長官率いる民主党も、大きな変化の波に直面している。それは急激な左翼傾斜だ。
「大きな政府の時代は終わった」。1996年の一般教書演説でこう宣言したクリントン氏の夫ビル・クリントン元大統領は、中道路線を民主党の基軸にした。だが、現在の民主党はクリントン夫妻がホワイトハウスにいた頃とは「ほとんど共通点がない」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)ほど様変わりしている。
米調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、クリントン政権時代の1994年に民主党内でリベラル派が占める割合は30%にすぎなかったが、2014年には倍近い56%に拡大。つまり、リベラル派はこの20年で党内多数派の座を奪ったのだ。
民主党候補指名争いで社会主義者を自称するバーニー・サンダース上院議員が旋風を巻き起こしたのは、決して偶然ではない。米国では長らく社会主義をタブー視する風潮があったが、今年2月の世論調査では、民主党有権者の57%が「社会主義は社会に好ましい影響を与える」と回答。中西部アイオワ州で1月に行われた世論調査では、自らを社会主義者と見なす民主党員が43%に上った。
民主党左傾化の流れを特に後押ししているのが、2000年以降に社会人になった「ミレニアル世代」と呼ばれる若者たちだ。彼らは社会主義にほとんど抵抗感を持たず、サンダース氏の左派色の強い主張を熱烈に支持している。
フィラデルフィアで先月開催された民主党全国大会で採択された綱領は、公立大学無償化などサンダース氏の看板政策を取り入れるなど「民主党史上最もリベラル」(米メディア)な内容となったが、これは同氏を支持する若者たちの離反を防ぐためだ。
それでも、大会中、サンダース派の一部代議員がプレスセンターに乱入して座り込みを行うなど、中道寄りの主流派が支配する民主党の現状に激しく抗議。ハワイ州の代議員レイナ・ホワイティングさん(28)は本紙に「離党も考えている」と語ったが、サンダース派の間では英国の欧州連合(EU)離脱を意味する「Brexit」をまねて、民主党から集団離党する「Demexit」を呼び掛ける動きがあるほどだ。
オバマ大統領が08、12年の大統領選で勝利する大きな原動力になったのは、若者、マイノリティー(少数派)、女性を強固な支持基盤とする「オバマ連合」を形成したことにある。その一角を占める若者が急激に左傾化し、民主党はこれに引っ張られているのが現状だ。
行き過ぎた左傾化は無党派層を遠ざける恐れがあり、党穏健派の間では懸念が広がっている。それでも、サンダース氏と同氏を熱烈に支持する若者の意向は、もはや無視することができない時代となった。
政治評論家のジュアン・ウィリアムス氏は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載された論評でこう指摘した。
「民主党は今やサンダース氏の党だ。クリントン氏を含むその他の民主党政治家は、その中で生きているにすぎない」
(ワシントン・早川俊行)