石川県小松市で来月「全国子供歌舞伎フェスティバル」
古典芸能通じ伝統文化を理解
「歌舞伎のまち」で知られる石川県小松市で来月、「全国子供歌舞伎フェスティバル in 小松」が開かれ、市内の子供たちによる恒例の子供歌舞伎が披露される。演目は地元ゆかりの安宅(あたか)の関を題材にした「歌舞伎十八番の内 勧進帳」。子供たちは半年余り、猛稽古を続けてきており、大人顔負けの演技に期待が高まるとともに、地域ぐるみの取り組みの教育効果に注目が集まっている。(日下一彦)
学校・家庭・地域一体で取り組み
同フェスティバルは、全国に「歌舞伎のまちこまつ」の魅力を発信しようと、平成11年に地域おこし事業として始まった。今年で18回を数え、5月4、5日の両日、JR小松駅前の「こまつ芸術劇場うらら」で行われる。
子供役者は武蔵坊弁慶や関守の富樫左衛門、源義経ら13人。昨年11月、市内の小学4年生から6年生を公募し、応募した児童の中から運営団体の子供歌舞伎「勧進帳」実行委員会がオーディションで選んだ。役者たちは1月~3月まで土曜、日曜日に市役所に集まって稽古を積み、4月には学校の舞台で、そして5月の講演直前には会場のうららでリハーサルを繰り返し、晴れ舞台に挑む。
物語は平家打倒に功績のあった源義経が、兄頼朝と不仲になり追われる身となる。義経一行は山伏姿に変装し、弁慶をはじめ、わずかな家来を連れて奥州平泉へと北陸路を急ぐ。その途中、加賀の国「安宅の関」に差しかかり、そこで頼朝から追捕の命を受けて待ち受ける関守富樫に見とがめられ、関所は緊迫の事態になる。
ここで弁慶は知力の限りを尽くして、その場を切り抜けようとする。金剛杖で打ってまで主人をかばう弁慶の忠義心に感銘を受けた富樫は、義経と知りつつ一行の通行を許す。弁慶、義経、そして富樫の三者が織り成す「智・仁・勇」の感動は、今も日本人の心を深くつかんでいる。
今回、主役の武蔵坊弁慶を務める増子絢香さん(6年)は、昨年番卒役で出演しており、2年連続の舞台となった。「迫力のあるかっこいい弁慶を演じられるように頑張りたい」と意欲を見せる。また、関守・富樫左衛門役の依田晴奈さん(6年)は、「みんなで力を合わせて最高の舞台を作りたい」と抱負を語り、源義経役の杉本陽香さん(6年)も「今までにない舞台にしたい」と意気込んでいる。
13人の役者のうち、10人が女子児童だ。今年に限らず、出演する役者は毎年女子がほとんどで、これには理由がある。
小松市には江戸時代から250年余り続く「曳山子供歌舞伎」が、今も脈々と受け継がれている。地元の祭礼「お旅まつり」(5月13~15日)で演じられるが、戦時中から男児に代わり女児が演じるようになり、「子供役者は女子」の習わしが今も残っているからだ。
一方、長唄と囃子(はやし)方も応募のあった小・中学生をはじめ、こまつ歌舞伎未来塾「こまつ邦楽教室」のメンバーや、小松市立高校邦楽部の生徒たちで編成されている。また、出演者を盛り立てる後見やツケ打ち、メイクや着付けなどの裏方スタッフも市民ボランティアと共に子供たちが加わり、舞台を盛り立てている。衣装や小道具、かつらなどは平成元年の「ふるさと創生事業」の一環でそろえ、その後、三味線や大小鼓、能管も購入している。
第1回から振付(監督)を務める元小学校校長で、加能歌舞伎塾を主宰する北野勝彦さん(71)は、子供歌舞伎『勧進帳』の教育的意義について、次の3点を指摘している。
①「歌舞伎」という日本の古典芸能に触れることを通して、伝統文化への理解、そして愛着が生まれる。演技のほか、多くの裏方係の仕事で、伝統芸能およびそれを取り巻く様々な仕事への理解を深め、協力によって一つのものができることを体験する。
②教育の最も基本的な姿として、稽古は徹底的な基礎基本の繰り返しの連続。そして礼儀作法の重視。特に伝統文化はしっかりとした基本の上に立ってはじめて成り立つ。
③生涯学習の代表例として振付、長唄指導も三味線も小松市民。役者も市内小学生から公募、その他すべてのスタッフも公募の小・中・高校・一般市民で構成されている。
役者経験者は、以後も裏方スタッフとして活躍。まさに学校・家庭・地域が一体となっての取り組みである。公演終了後の満足感、成就感は得も言われぬ。理想的な生涯学習、総合的な学習である(「青少年体験活動全国フォーラム」での報告より)。
同フェスティバルには、毎回、全国で活動している子供歌舞伎が二つ招待されている。今年は愛知県新城市の「新城 山・白子歌舞伎保存会」が「番町皿屋敷 青山家座敷の場」を、同県豊田市の「小原歌舞伎保存会」が「稚児揃曽我の敷皮 由比ケ浜」を演じる。