2020年、東京の住宅事情 心の豊かさ満たす住宅指向
株式会社ナミキ代表取締役社長 石塚隆正氏に聞く
超高齢化社会を迎え、とりわけ一極集中が進む首都・東京は、2020年の東京五輪を迎えるここ数年のうちにも住宅事情にさまざまな変化が現れそうだ。東京銀行を経、三菱東京UFJ銀行の本店営業部で辣腕(らつわん)をふるい、現在、株式会社ナミキ代表取締役社長の石塚隆正さんに「住」の果たす役割と人々の住宅への意識の変化を聞いた。(聞き手=編集委員・片上晴彦)
3世代住宅需要はこれから/医療設備が整う都市集中
不動産売買7割が相続絡み/持家から賃貸への傾向
家族形態が変わってきており、住宅供給側として、どう対応しているか。高齢化、介護問題、単身者の増加、逆に3世代住宅の需要はどうか。
社会の望む事業を行うと、社会が認めてくれ、企業自体の成長が結果として望める。高齢化・介護問題の領域では、「サービス付き高齢者賃貸住宅」を5棟建設し、運営しており、満杯だ。皆さん、終(つい)の住み家として家などの資産を処分しておカネだけ持って入居される。
今世紀半ばには、日本の人口は3割減少し、労働人口は4割減少すると予測され、完全に衰退国の様相を呈す。高齢者は45%、50歳以上は70%になるから、住宅産業の行く末も見えてくる。おっしゃる通り、どう経営の構造転換を図っていくかだ。
3世代住宅については、真剣な需要があるはずだが、目に見える形で大きくは出てきていない。これからだと思う。発想はあっても生活者からの具体的需要が顕現していないということだろう。
大学時代、私と一緒にアメラグをやっていた同期の建築家で、ベネチア・ビエンナーレで東京都の後援を受け、「自創する国際都市・東京」という作品を出展した10大建築家の一人がいるが、その中のコンセプトの一つに3世代住宅の発想が入っていた。3世代住宅はこれからだろう。
ペット可の住宅は増えているか。65歳以上は入りにくい住宅事情があるのではないか。保証人の問題などもある。
ペット可の住宅は増えつつある。RC(鉄筋コンクリート)造では木造に比べてペットを飼うことによる家の破損の程度は低いから、家主オーナーの決断如何だ。ペットを愛し、生活を共にする傾向は少子化を背景に増加しているから、都内においてむしろ漸増傾向だ。木造ではペットによる家の損傷は大きいが、それでも増えつつある。大空室時代を控え、むしろペット可として入居率を高めたいという家主オーナー側の要求もあるだろう。
高齢者の賃貸住宅への入居だが、なかなか難しい。健常な働き手として生計の道を有しており、賃借料をキッチリ払ってくれる人は、最近少なくなってきたように見える。年金がもらえるなら無理して働かず、健康のために気楽に働きたいという人が多くなったのではないか。
今世紀中に平均寿命が95歳から105歳、つまり100歳になると言われているが、賃貸管理業務を行っている側から言うと、家賃を滞納する高齢者は増えつつあるように思う。年金を抑えて家賃に優先充当させる手続きその他、なかなか大変だ。家主オーナーが好まない傾向もあり、高齢者は入居しがたいという事情はある。
住宅の獲得は人生の目的にもなっている面があるように思う。勝ち組、負け組とも関係する。住宅に関する昨今の人々の意識変化はあるか。
最近の不動産売買のおよそ7割が相続絡みであると言われている。寿命の延伸から、相続人も高齢者である場合が多く、そうすると孫たちは不動産の所有が人生の目的というよりも所有するのが面倒くさいと思うようになってきている。住宅以上に自動車でさえ、使う時借りればいいと思う若い人たちが多くなってきている。
住宅という不動産を所有しても維持管理が大変でいらない、とはっきり言い切る若い人たちが増えている。欧州のように住みたい場所で借りればいいと思う人が増えつつある。賃貸住宅も100年持つような堅固な建物で、入居者が代わるたびに改装する時代になってくるだろう。
住宅に関する意識も徐々に変化していると思う。住宅を取得することが人生の目的、成功の証などという社会意識は薄れてきていると思う。固定資産税の負担も煩わしいと思う人たちが増えつつあるのではないか。
衣食住の中で、今後、住の果たす役割は。
当社の「企業理念」の中に「心地よい生活空間の創造と提供により社会および地域に貢献する」というフレーズがあるが、いよいよ心地よい生活空間の提供が真に必要な時代に突入しつつあると思う。人口減少と共に経済は先進諸国の中で衰退の一途をたどる可能性が高い。心の豊かさを求めるのが21世紀、「心の時代」だ。
従って、生活空間としての住の役割は機能的であり、健康的な、心の休まる豊かな生活空間の提供というところに焦点が絞られていると思う。また、高齢化社会で1人当たりの医師・病院の数の多い都市集中居住にならざるを得ない。
持ち家よりも住みたい場所で賃借する形が増えてくると思う。あと15年たった2030年には、現在の職業・職種の49%は人工知能・ロボットなどの機械化の進展でなくなる。仕事も所得も日本全体で減少するので、固定資産税の負担に耐えられる普通の社会階層が激減するのだ。設備、内装、家具などのしっかりした都会の賃貸住宅に住むという欧州型の住の文化に変化していくと思う。
近隣住民間のトラブルが多くなっていると聞く。管理する側としてどう対処しているか。
従来、トラブル、クレームが多いのは、入居者の発する騒音。騒音とは、けんか・口論による怒鳴り声、罵声に始まり、楽器演奏の音、壁をたたく音などなど。窓を開け放つ季節には「うるさい」というクレームが多い。
外国人労働者が増えてきており、特に中国人のけんかは激しく、生活規範が異なるのでゴミの分別、廃棄に始まり、明るいあいさつを交わす社会風土など程遠くなりつつある。入居時にいろいろ教えているが、ダメだ。多言語表示のお願い告知を大きく貼りだしているが、なかなか徹底指導が行き渡らない。掃きだめ社会を造りたがる人種が日本を席捲しつつあり、これは一種の公害だと思う。
住宅造りは、街づくりを担っているが、成増周辺の住民意識の変化はどうか。
東武東上線、地下鉄有楽町線に副都心線がつながり、渋谷から東急東横線、横浜からみなとみらい線と「森林公園」から「元町・中華街」へと路線が一本化した。
成増は交通利便性に加え、物価水準を含む生活利便性も高く、相応の文化水準があるのに、何で「武蔵小杉(むさこ)」の繁栄がないのだと、よく指摘される。
成増周辺で賃貸管理物件戸数が圧倒的に高いナミキが、入居率を高め、賃貸経営に資するために賃料を低く留めているのではないかとお叱りまでいただく。別にそのようにしているわけではない。
良い街づくりをしなければならない。それは当然だ。象徴的な建物も必要だろう。生活利便性は潜在的に高く、住民自体もそう意識している。成増への流入人口も増えつつあり、武蔵小杉とは違った文化都市・成増を造っていくことが真に求められていると思う。