安哲秀氏、再び存在感 第3党率い韓国総選挙で躍進
政局主導や大統領選へ意欲
韓国総選挙で中道左派の第3党「国民の党」が躍進し、共同代表の安哲秀氏が再び存在感を示している。選挙では最大野党「共に民主党」を離党した安氏が掲げる「既存政治の刷新」が古巣の「共に民主党」の地盤である南西部の光州・全羅道で圧倒的な支持を受けた。安氏の動向は今後の政局はもちろん、来年の大統領選を左右する可能性がある。(ソウル・上田勇実)
左派地盤から熱烈支持
「日韓合意」破棄を主張
光州・全羅道は軍事政権に反発した民主化運動の「聖地」として、また多くの歴代大統領を輩出した南東部・慶尚道への地域対抗意識から左派政治の地盤となってきた。このため当初は共に民主党への支持は固いとみられていた。
ところが、選挙前の世論調査では同党を離党した安氏が立ち上げた国民の党への支持が高いことが判明。共に民主党は選挙期間中、この地域での遊説を強化したが「焼け石に水」だった。光州・全羅北道・全羅南道の地域区28議席のうち国民の党は23議席を席巻。結局、ソウル2議席と比例代表を合わせ、38議席を獲得した。
与党セヌリ党は過半数を大きく割り122議席、共に民主党は与党を上回る123議席となり、いずれも単独過半数には及ばない。両党とも国民の党の同意なしには各種法案はもちろん国会議長の選任なども思い通りにできない。
国民の党は国会運営で一定の影響力を行使できるようになる院内交渉団体(20議席以上)となり、院内交渉団体以上の3党体制は中部・忠清道を地盤とした自由民主連合(自民連)が50議席を獲得した1996年の総選挙以来、20年ぶりだ。
国民の党の躍進は安氏人気によるところが大きい。安氏は政争に明け暮れる既存政治に極めて懐疑的な立場を示してきた。最大の懸案事項とも言える経済問題について安氏はテレビ討論会で「問題は経済ではなく政治」と語り、民生のため献身できずにいる政治を叱咤(しった)したこともある。
安氏は前回大統領選(2012年)で文在寅候補(民主統合党、現在の共に民主党)に野党系単一候補を譲歩したが、選挙で文氏は敗れ政権交代を果たせなかった。その後、再び国会議員として活動を再開したが、既存の2大政党の枠組みでは政治を変えられないと判断して離党。第3勢力の存在意義を訴えてきた。
既存政治への不信・不満を抱いてきた有権者の中で、それに代わる勢力を支持しようという人たちが、安氏のこうした姿勢を評価し、期待を懸けて投票したようだ。
安氏は今後について「単なるキャスチングボートではなく、問題を解決する政治を主導する国会運営の中心軸にならなければならない。政策を主導する政党にならなければならない」と述べた。また「政治を変え、政権を替え、国民の生活を変える政治がわれわれの目標」とも語り、事実上、来年の大統領選を意識した活動に意欲を示した。
気掛かりは今回の総選挙でほとんど争点にならなかったものの、日本にも影響が出てくる外交・安保政策だろう。
安氏は朴槿恵大統領の対北政策について「完全に失敗」と述べ、最初は韓半島信頼プロセスを標榜(ひょうぼう)していたのが、北朝鮮が核実験や長距離弾道ミサイル発射をはじめ周辺国への挑発をエスカレートすると開城工業団地の操業を中断させたなどとして「融和路線と強硬路線を行ったり来たりしている」と批判したことがある。
ただ、安氏自身も「懸案ごとに政策が保守的だったり革新的だったりする傾向」(韓国紙)があるようだ。「安保は最優先課題」と主張する一方で、北朝鮮によるサイバー攻撃を防ぐため情報機関を強化することを骨子としたサイバーテロ防止法案について国民の党は人権侵害の恐れを理由に難色を示している。