複数の文化共存するバングラ
首相顧問のリズヴィー教授が講演
タリバンの影響力を排除
イスラム社会だがイスラム国家ではない
来日中のバングラデシュ首相顧問のガウハー・リズヴィー教授は7日、都内で「政府は消えうせるのか―ガバナンスの将来」と題し講演した。教授は「(バングラデシュは)イスラム社会ではあってもイスラム国家ではない」ことを強調し「タリバンの影響力を排除できた理由だ」と強調した。同講演会は笹川平和財団が、日本とアジア諸国間の相互理解を深める「アジアオピニオンリーダー交流」事業の一環として行っている。(池永達夫、写真も)
リズヴィー教授は「バングラデシュは産業革命の機会を失ったかに見えたが、全国8万の村落にIT(情報技術)センターを構築して、政府のサービスを村まで届けることに成功した」と述べた。
とりわけ教授は「全国にある1万8000の医療クリニックを通じて農村でも無償で医療を提供できるようになった」とハイレベルな医療とまではいかないまでも国民の基本的な健康を担保する医療システムを構築したことを強調した。
1人当たりの国民所得が1200ドルクラスの後発開発途上国で、こうした医療制度を持っている国はない。おかげで1971年の独立当時、40歳だった平均寿命は現在、70歳にまで延びている。ちなみに独立当時に貧困層は80%を占めていたが現在、21%まで縮小しているという。
この貧困層激減の最大の功労者は、活発に動いた非政府組織(NGO)だった。ブラックやグラミン銀行による貧困層への比較的低金利の融資を行う事業(マイクロファイナンス)が女性の自立と貧困の改善に大きな貢献をしたからだ。
グラミン銀行創設者のムハマド・ユヌス氏は2006年、「貧困層の経済的・社会的基盤の構築に対する貢献」を理由にバングラデシュ初となるノーベル平和賞を受賞している。
また教授は「バングラデシュはイスラム社会ではあってもイスラム国家ではない」として、「複数政党が存在する民主主義国家であったことが、タリバンの影響力を排除できた理由だ」と説明した。
宗教的なアイデンティティーは存在するが、複数の文化が共存しているのがバングラデシュだ。人々は所属する教会でそれぞれお祈りしても、祭りとなると所属教会を超え、皆一緒になって祝う共存の風土が存在している。
新年の祝いなどに見られるこうしたバングラデシュの風土を、教授は「宗教的な中立性がある米国の感謝祭に似ている」と述べた。
外交問題に関して教授は「隣国を選ぶことはできず共存するしかない。しかし、近いことは大きなメリットだ。わが国は、インドやミャンマーなどから資源を輸入し、製品を輸出できる」と全方位外交を説明した。
これに対しフロアからは、「困った隣人」に対する質問が出された。
「日本の近隣には、人権も自由も尊重していない国がある。権力闘争はあっても、民主的な選挙もない。そうした困った隣人には、どうしたらいいのか」との質問に対し教授は楽観論で答えた。
「いずれ市民は動き、ピープルパワーが国を動かす時が来る」というのだ。
最後に教授は日本への感謝の念を語り講演を総括した。
「日本の支援は、純粋な開発パートナーとして、わが国に寄り添うものだった。国際開発機関はこうした日本から学んでほしい。輸送インフラや電力、人的支援など、あらゆるニーズに対し常に日本は応えてくれた。他のドナー国と違って(上から目線で)こうすべきだということは一度もなかった。日本はこれを誇りに思ってほしい」と述べた。
バングラデシュの国旗には、緑の下地に真っ赤な太陽が描かれている。
教授は「国旗を見ても分かる通り、バングラデシュと日本は魂でつながっている」と言う。ちなみに昇る太陽の赤と豊かな大地を表す緑のバングラデシュ国旗に対し、初代バングラデシュ大統領ムジブル・ラフマンの娘のシェイク・ハシナ首相は、「父は日本の日の丸を参考にした」と証言している。











