海外で養子取る同性カップル紹介しながら是非論じぬ「グッディ!」
◆男女結婚と価値混同
同性カップルであっても「結婚に相当する関係」と認めて、証明書を発行することを盛り込んだ東京都渋谷区の「同性婚」条例が先月31日、成立した。その直後に記者会見した桑原敏武区長はこう語って胸を張った。
「国政において、人権上の課題として一石を投じる歴史的な一ページに、この条例はなった」
同性カップルの結婚問題を公然と論議することは、これまで社会のタブーだった。それを、たとえ渋谷区レベルとはいえ、公的に認めたことは画期的で、だから「一石を投じる」と言ったのだが、婚姻制度の本質は男女間から生まれる子供の福祉にある。そのことを無視したこの条例が、今後引き起こす社会の混乱を考えれば「パンドラの箱を開けた」と表現すべきだろう。
3月30日から始まった昼の情報番組 「直撃LIVE グッディ!」(フジテレビ)は、同性愛者やその支援者らが条例成立を祝うパーティーを開く模様を放送した。そこに顔を出した桑原は「これで大きな枠組みができたわけですから、これからはどんどん進んでいくと思います」とも語っている。
「どんどん進んでいく」とは同性愛者などの性的少数者の権利が拡大するということで、その到達点は国のレベルでの同性婚の容認だ。渋谷区の条例はその実現に向けた「一ページ」というわけだ。
だが、条例の根底にある理念は男女の愛も同性愛も、はたまたバイセクシャル(両性愛)にも同じ価値を認めるというのだから、これこそ価値観の混乱以外の何ものでもない。次世代を生み育てる男女の愛と、そうでない愛が同じ価値というのはいったいどこから出てくる発想なのか、まったく理解不能の論理だ。
◆差別は別次元の問題
ところが、同性婚条例の支持者の多くは、性的少数者の人権尊重は大切だからいいじゃないかぐらいにしか考えず、同性婚合法化の危険性に目を向けないのだから、始末に負えない。記者会見で、桑原は「性的少数者については、(区民の)ほとんどは知らない」とも語った。知らないから偏見が生まれ、差別につながるという意味での言動だが、彼の発言の意図とは関係なく、この問題について無知な日本人が多いことは確かだ。
「(同性婚条例について)賛否は確かに分かれるとは思いますけど、(性的指向は)違っていてもいいじゃないですか」
こう語ったのは、「グッディ!」の司会を務める安藤優子。安藤と言えば、日本の女性ニュースキャスターとしてはベテランである。その彼女にして、この程度の認識で、婚姻制度の本質についてまったく眼中にないのである。ましてや、条例案に賛成票を投じた渋谷区議会の議員たちがそれを理解していたとは思えない。
社会に同性愛者がいることは否定しようのない事実だが、彼らの人権問題と、婚姻制度を変更することはまったく別次元の話である。同性婚を認めることの問題の代表例は子育てへの影響だろう。
◆養子の子供こそ深刻
番組は、1989年に世界で初めて同性パートナーシップ法を制定したデンマークで同性カップルの16%、つまり6組に1組が養子を取るなどして子育てをおこなっていることを紹介した。男女の愛も同性カップルのそれも同じ価値だとの前提からすれば、夫婦に与えられている権利が同性カップルに与えられなければ不平等で差別となる。だから、養子を育てることも認められるのだ。
ところが、テレビのニュースキャスターやコメンテーターの多くは、異性愛者も同性愛者も同じ権利を持つべきだと主張しながら、同性カップルが子供を育てることの是非については言及を避けている。それに触れると、性的少数者の人権尊重では済まない問題であることに、視聴者が気がつくからだ。
子供の立場になれば、夫婦の間で育つことと同性カップルの間で育つことの違いは深刻で、「違ってもいいじゃないですか」では済まない問題であることは明らかだ。それを、いい加減なコメントでお茶を濁すのは、視聴率稼ぎのために同性愛者らを出演させ続け、渋谷区がパンドラの箱を開ける下地をつくってきたのがテレビだからなのだろう。(敬称略)
(森田清策)