米政権に過剰な期待 「パレスチナ」で不信浸透

2015 世界はどう動く 識者に聞く(14)

エジプト改革と発展党党首 アンワール・サダト氏(下)

400――私がエジプトに赴任した当時、米同時多発テロが発生、エジプトの著名な新聞が、米CIA(中央情報局)とイスラエルの仕業だとの記事を掲載したことに、とても驚いた。

 勿論、それは狂っている。我々は真実を認め、受け入れねばならない。他の宗教を信じる人々のことに注意を払わない聖戦主義者や過激主義者によって為(な)されたのだ。大きな誤りだ。

 イスラム指導者は、「これはイスラムのやり方ではない」と否定し、「我々の責任ではない」と主張してきたが、彼らは責任がある。何人かの狂ったイスラム教徒がこの攻撃を行ったのは事実だ。最近パリで攻撃した狂った人々と同じだ。これは風刺漫画の故に起きたこともはっきりしているが、言論の自由は守られねばならない。

 ――トルコのエルドアン大統領の政策についてどう思うか。彼は、ムスリム同胞団を支持してきた。

 数年前まで、我々はいつもトルコを経済的に成功したモデル国家として見ていた。

 一方で、トルコはいつも、旧オスマン帝国時代に戻りたいとの夢を持っている。そしてEU(欧州連合)に対し、自分たちは、アラブ諸国や湾岸諸国などをコントロールできるとのメッセージを送ってきた。

 トルコは、ムスリム同胞団を穏健なイスラムを代表し得ると考え、エジプトの同胞団のみならずチュニジアなどのムスリム同胞団も支援したのだ。しかし、それは失敗だった。トルコは今、夢を失って、どうしたらいいのか分からないでいる。

 トルコが自分の立場を再考し、地域の国々とより友好的になり、人々の要求に反することではなく、人々の要求や願い、選択を尊重し、再びノーマルな関係を築くよう希望している。

 ――オバマ米政権の問題点は何か。

 私は、アメリカ人は、我々の地域の実情をよく理解していないと思う。ヨーロッパの方が(米国より)理解している。米国は、アラブや中東の問題をどう解決したらいいのか、理解できないでいる。この地域の人々は、米国はいつも、ダブルスタンダードの立場を取っていると感じている。イスラエルとパレスチナ問題などに対してだ。だから米国は現在、この地域で多くを失っている。この地域の人々はもはや米国人を信じていない。彼らは、アメリカ人は陰謀を持っているだけだ、と感じている。

 オバマ氏が政権を取った時、全ての人が、彼はうまくやってくれると信じた。彼がエジプトのカイロ大学で「新しい始まり」について演説した時、我々は皆、とても幸福だった。しかしその後は全てに失敗した。あまりに期待が高過ぎたことを意味していると私は思う。

 今日、誰も米国と付き合おうとは思っていない。私は悲しく思うが、我々エジプトは長い間、米国と戦略的関係を持ってきた。米国はエジプトを支援し助けようとしてきた。しかし私は今、それがすべて失われたと感じている。

 だから、米国はある努力をしなければならないが、新たな大統領の下で始まることになるだろう。多分、共和党出身の大統領の下で始まるのかもしれない。オバマ政権下でやるにはもう既に遅過ぎるのだ。

 エジプトのシシ政権は中国とロシアに行き始めている。それは米国に対するメッセージだ。「あなたはもう真の友人ではない」というメッセージなのだ。

 ――今回の安倍晋三首相のエジプト訪問をどう評価するか。

 とても成功したと思う。我々は皆、日本の経験を尊敬の目で見つめ、日本の経験に感謝している。なぜなら、日本人は仕事を重んじ、完璧に成し遂げているからだ。エジプト人も同様にすべきだ。

 安倍首相は日本と中東諸国の交流において、天然資源だけでなく文化や科学などあらゆる分野で交流することを確認したが大変意義深い。

 日本は既に、エジプトの日本科学大学やオペラハウス、大エジプト博物館、サラーム橋の建設などで支援してくれた。安倍首相はさらに、専門家(学者や技術者など)の交換やスカラシップなどの件で交流を深めたいと表明した。最も感動したのは、日本がテロで苦しむこの地域を強く支援したいと語ったことだ。